記憶の中のきみへ
これは、僕が体験した出来事の記録だ。
全ては、あの日から全てが始まった。
その日まで僕は記憶もなかったし、自分が何者だと言うこともわからなかった。
なんのためにここにいて、何かをして死ぬのか。
そんなの考えたこともなかった。
しかし、彼女がきてから僕の世界は変わった。
彼女は僕にとっての光だった。
でも、彼女は亡くなった。
いまだに思う。どこからが間違えていたのか。
なぜ、彼女は死ななければならなかったのか。
これは、彼女の真相を知っていく物語だ。
目を開けると、そこは知らない部屋だった。
辺りにはベッドがいくつかあり、他に人はいなかった。
起き上がろうとすると、体が動かない。
無理やり動くことはできるが、動くたびに胸を突き刺すような痛みを感じる。
また、頭がぼんやりとしていて思考がまとまらなかった。
青年はただ、ぼんやり空を見つめることしかできなかった。
いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。微かに聞こえる声に目を覚ますと、目の前には白い壁とシンプルなベッドが並ぶ、清潔感のある病室が広がっていた。視線を移すと、黒いホブの髪型が特徴的な女性が立っていた。彼女は黒いライターを羽織り、柔らかい笑顔を浮かべていた。彼女は僕の顔をじっと見つめた後、何か言いたげに口を動かそうとしたが、そのまま言葉を発せずに立っているだけだった。僕はその間に、いくつかの質問をすることに決めた。
「ここは…どこ?僕は誰?この傷はなんなの?」
「質問は一度に一つにしてね。まず、あなたは病院の前で倒れていたの。名前は分からないけれど、その傷は放っておかないほうがいいわ。結構な傷があるから、安静にしたほうがいい。」
彼女は手に持った飴をゆっくり舐めながら、優しく話しかけてきた。その仕草は、心からの配慮を感じさせるもので、彼女の穏やかさが伝わってきた。
「ありがとうございます。ええと…。」
「つぼみ。柳沢つぼみ。覚えておいてね。」
つぼみはそう言いながら、柔らかい笑顔を浮かべた。その微笑みには、安心感を与えようとする意図が込められているようだった。
「さて、これからどうするつもり?あなたの親しい人に連絡しようと思ったけど、学生証もマイナンバーカードも、スマホも持っていなかったのよ。家族や友達のこと、何か思い出せることはある?」
「…いえ、何も思い出せないです。」
僕は首を横に振りながらそう答えた。記憶喪失だと知り、しばらくどこかで住むことになるのだと彼女が言った時、心の中で冷たい恐怖が広がっていった。自分の名前も、家族も、友達も何もわからないこの状況で、将来がどうなるのか分からないという漠然とした不安が、心を締め付けるように広がっていった。
つぼみが僕の沈んだ表情に気づいたのか、優しく提案してきた。
「ねえ、もしよかったら、私が管理している寮に来ない?そこなら生活できるわ。」
「寮…?住む場所があるのなら、ありがたく受け入れます。」
「よし、それじゃ、その傷が治って安定して動けるようになったら案内するね。それまでは安静にしているのよ。これでもあなたを診断した医者だからね?まあ、ジャンルは違うけど…。」
「ありがとうございます。ええと、何を専門としている医者さんなんですか?」
「ん?ああ、精神科よ。とはいえ、カウンセリングが主だけどね。」
「すごいですね…。」
「褒められても何も出ないわよ?」
「はは…。」
愛想笑いを浮かべながら、僕は再び天井を見上げた。つぼみの言葉には少しだけ安堵を感じつつも、未来への漠然とした不安は消えることがなかった。
「では、あら、寝るの?おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
そう言うと、つぼみは笑顔で部屋を出て行った。彼女の足音が徐々に遠ざかっていくのを確認した後、僕は目を閉じた。少しでも安らぎを感じられたらいいなと思いながら、心の奥底に残る不安と共に眠りについた。
どうも渋谷ヨルです。
短くてごめんなさい!
これから青年は彼女と巡り合い、そして彼女にいろんなことを教わりながら成長していきます。
これはまだ、プロローグです。
ですがプロローグがあってこそ、物語は輝けるものだと思います。
ぜひ、楽しんでいってください。