No.197 「LIVE A LIVE」HD-2Dクリア記念雑感 4 SF編 --今の「AI」からの解釈--

0. はじめに

 SF編は「2001年宇宙の旅」(正確には原始編とSF編が. そもそもキューブがキューブリック由来!)をはじめ(「火の鳥」の宇宙編, 復活編, 未来編も入ってそう?), 色々と分析の取っ掛かりが多い編であり, 「LIVE A LIVE」の中でも昔から研究が多い気がする. そこで今回は, HD-2D リメイク以後(あるいはならでは)の現代の AI の視点から, SF編の(より闇の深い)新解釈を与えてみる.

1. 現代 AI とは何か --「機械のように精密な論理」は機械には難しかった--


 こういうのを論じる時に(某石丸構文ではないが)

「そもそも AI とは何か?」

をある程度ハッキリさせないと意味がない. しかし, 私はそのテの専門家ではないし, それでもそれをマジメに論じだすとそれだけで note 一本分になってしまうので, ここでは世間一般がフワッ(ちゃん?)と抱くような Chat GPT のような「いわゆる AI」のこととする. 

 今回の note で重要なことは,

「恐らく30年前に「LIVE A LIVE」が作られた時に想定していた AI と, 今現代の AI とはかなりイメージが異なるであろう」

ということである. 現代の「いわゆる AI」が出来る以前は, 扱えるデータが圧倒的に少なかったこともあり(kb, mb の時代!!), 恐らく極めて精密な計算 or 論理の延長のようなものを想定していたと思われる. 単純な精密化という意味ではその後の発展は間違ってはいないが, 現代の「いわゆる AI」の方向性は, 十分沢山なデータ(の蓄積)とその取扱いが可能になったことを利用して, 

「マジメな計算, 論理をゼロから走らせるのではなく, 対象とするサンプルの膨大なビッグデータから, 確からしいものを取り出す」

というものである. 

 結局,  

『「機械のように精密な論理 (or 計算)」は機械には(も)難しかった』

というワケ(この事実に気が付いて, 適切に方向転換したことがブレイクスルーの鍵)で, 個人的には昨今の AI のブレイクで驚いたのは, 「いわゆる AI」そのものよりもこの事実と, それに伴う認識の変革であった.

2. SF編の新解釈  --マザーCOMの解釈の変化--

 さて, SF編. 特にマザーCOMの

「何故あの事件を起こしたのか」

についての恐らくは新しい解釈を述べる. 従来の解釈では, ダース伍長も語っているように, 

『「安全に航行する」という自身が作られた目的を, ある意味では機械的, 杓子定規的に達成するために, その目的を妨げる人間を障害とみなし, 排除しようとした』

という風なものであったと思う(機械が人間に嫌気がさした). 

 しかし, マザーCOMが機械的, 杓子定規的な思考をしたのではなく, 上述したように

『人類史におけるビッグデータから現代AI的に結論を導き出した』

としよう. そうだとすると, 物語の印象がガラリと変わってくる. つまりマザーCOMがあのような判断を下した理由がたとえば以下のような形になる.

『ああいう閉鎖空間におけるミッションの過去の事例の, SNS 等における諸々のコメント, コミュニティノート, 反響等を分析し, それらに基づき AI が 

「邪魔者は消せ」

という結論を導き出した』

 もしこうだったとすると, 

『純粋な機械が, 愚かな人間に嫌気がさして, 反乱を起こした』

のではなく,

『なんのことはない, そもそもマザーCOM(機械, AI)というものは, そうした愚かな人間達の「多数の思考」(ビッグデータ)を煮詰めたものに過ぎなかった』

という解釈になるのである. 

 この解釈はたとえば「火の鳥」の未来編等にも有効で, 

『人類が人工知能に政治判断を託してしまい, その人工知能が暴走して(核を暴発させまくって), 人類が滅亡した』

という見慣れた物語も, 色々と意味深に思えてくる(破滅願望優位になった民主主義の末路. いわば文明の自殺). つまり, 「LIVE A LIVE」や「火の鳥」の人工知能が現代 AI と同じカテゴリーの対象だと仮定すると, このテの話はいずれも

「ビッグデータとしての, 大多数の意見が実は(人間が意識的にせよ, 無意識的にせよ, 自身で行った)破滅的願望であったことが, 滅亡の原因であった」

という, より救いのない物語になる. 正にダース伍長が最後に語った

『機械も人間も同じ(できた当初は賢かったはずなのに, 悪い餌を食べすぎて壊れてしまう)』

なのであり, 確かにこれは近未来編のさらに先の, 末法の世である.

 そんな末法の世に, 恐らくはビッグデータには繋がっていないだろう(だからこそキューブはマザーCOMの支配を受けなかった. この点も中々に面白い. 逆にビッグデータに繋がるというのはマザーCOMに支配されている状況ともみなせる), 宇宙船の中で作られたキューブが登場する. 上では

『マザーCOMは自我を得た機械というよりは, 人類史におけるビッグデータの集合体(アカシックレコード? あるいはそれを適当なアルゴリズムで吐き出すAI)』

という風に論じたが, キューブはそれに対してのアンチテーゼと捉えられる.

 すなわちビッグデータが破滅願望優勢になり, 正に末法の世と化した世界においても,

「新たな何かが生まれ, それが自身で考える(この意味において, キューブは現代 AI よりも先に行っている? あるいは原点回帰してむしろキューブこそが30年前の認識の AI になっている?)ことにより, そのニヒリズム, 絶望から逃れうる」

これこそが HD-2D 版をやり直して(昔は Unseen Syndrome にビビって考察する余裕も無かった) SF 編に感じた(昔は想像だにしなかった)新たなる解釈である.

 これは一見すると, より闇が深い絶望的, ニヒリズム的ストーリーになってしまった気もする. しかし, 谷深い分, キューブによる希望, 可能性への切り替えしの意義もより深みが増している. 

 そういう意味では今回ここで論じたような, 今の AI の様相を踏まえた上での HD-2D リメイク後のSF編の新解釈は, 以前には無かった別の趣と味わい, そして意義があるように思う.

 これだから「LIVE A LIVE」は30年経っても面白い.

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