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時は過ぎていく

すっきりしない曇り空の日曜日。

今から三十数年前の三月末、
大学進学のために上京した。
借りたアパートは、最寄の山手線の駅から、
商店街を抜けて徒歩十分。
二階建てで、僕の部屋は二階に三部屋あるうちの、
一番奥の角部屋。
一階は大家さん。

東京への憧れがあって上京したけれど、
実際に住むとなると、嬉しさと不安がないまぜになった。
実家から早く出たいとは思っていたから、
一人暮らしは楽しみではあったけれど、
東京の生活に慣れていけるのかどうか。

大学生活が始まってみると、
授業があって、サークルに入って、
今でも付き合っている友達にも、
この時に出会えた。

一階の大家さんの奥さんは、たまにピザを焼いて
持ってきてくれた。
暖房器具も「出て行く(退去)するとき返してねー」
と言ってずっと貸してくれた。
二年住んで、あと二年更新となったときも、
大家さんの奥さんは、
「更新料はいらないからねー」と笑って言ってくれた。

人はたくさん住んでいるけど、
東京でも、うちの田舎とあんまり変わらない人間関係があると思って、
東京で生活するのが楽しくなっていた、
高い建物も、池袋のサンシャインと、西新宿の高層ビル群くらいで、
まだまだ空は広かった。

最近の再開発を見ると、
どこもガラスとコンクリートの超高層ビルばかりで、
似たり寄ったり。
きっとコストがかけずに見栄えをそこそこにすると、
こうなるんだろうな、とつい思ってしまう。

人とぶつかっても
「すみません」を言うでもなく、
軽く目礼をするでもない。
何事もなかったように行ってしまう。

自分が上京した時と比べると
東京は何かが変わってしまったと、
ここ数年で、とても感じる。
でも、その「何か」が何なのかが分からない。
ずっともやもやしたまま。
まあ、でも時間が過ぎているから、
変わるのは当たり前と言えば当たり前。

変わっていないのは、
僕の東京に対する感覚のほうかもしれない。

ここ数年、移住ということを
ふと考えてしまうのは、
そういうことが心のどこかにあるからかな……と
思ったりする。

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