小説 介護士・柴田涼の日常 87 安西さんの食レク、次の勤め先が決まる猪俣さん、ペットロスの真田さん

 今日は食レクの日だった。安西さんがご利用者と一緒にスイートポテトを作るレクを企画した。安西さんは今日はお休みだったが、手当ては出ないにもかかわらずわざわざこの食レクのために来てくれることになっていた。十三時に休憩から戻るとすでに安西さんはさつまいもの皮を剥いて準備を進めていた。しばらくすると、早めに休憩に入った日勤の真田さんも戻ってきて安西さんの手伝いをした。早番の僕は日中の行動記録をつけたあと、いろいろ指示を受けて動いた。最初にできた試作(安西さんはぶっつけ本番でスイートポテトを作ったので、これが試作となる)を栄養士の中村さんに届けに行く。どうやら中村さんはもうすぐ辞めてしまうらしい。三年くらい勤めたがほかで働いてみたくなったと言う。若いからいろいろなところで経験を積みたいのだろう。まだ次の職場は決まっていないと言っていた。次の職場も決めずに辞めてしまえるなんてなかなかスゴイと思った。

 お昼休憩の間に聞いた話を思い出した。

 Fユニットの猪俣さんは、次の職場が決まったと言う。就職活動を始めてから一週間もしないうちに決まったみたいだ。以前使った介護の転職サイトとは別のところに職歴や希望を登録してみると、次から次へとスカウトメールが来たそうだ。その中から条件のいいものを選んで応募するとすぐに決まったと言っていた。ボーナスを貰ってから辞めてもいいんだよと寺田次長に言われたようだがそれは断ったそうだ。「ほんとうはできることならいますぐにでも辞めたいね。でも辞めるときは二ヶ月前に言うっていう契約だから仕方ない。次の職場ではサ高住(サービス付高齢者向け住宅)のサ責(サービス提供責任者)として働くの。覚悟しといてねって言われた。大変だと思うけど、そっちのほうが自分に合っていると思うし、ずっと日勤でいいっていうのがいい。ここだと夜勤大変でしょう。夜中に歩き回る人とかも入って来ちゃったから、精神的な負担が大きくて」と猪俣さんは言った。

 一方、真田さんは、ペットロスがひどいと言う。「ちゃんと骨壷を置くスペースを作って、お花を生けてもダメなの。だから今度はお線香まで立てちゃった。それでも悲しいの。もうペットフード売り場の前を通るだけで胸が締め付けられちゃう」

「次の猫を飼うのはどうですか? そこの駐車場に野良ちゃんがいるみたいですよ」とDユニットの宍倉さんが言った。

「わたし、美猫じゃないとダメなの。いつまでもじっと見ていられるような猫じゃないと。トラちゃんはわたしが帰ってくると玄関の前で待っていてくれるし、網戸も障子もガリガリしないし、ガリガリするのは爪とぎのところだけ。いい子だったのよ。へんに野良猫をもらったりするとトラちゃんみたいに猫エイズでまた死んじゃうでしょ。でももし今度その野良猫を見かけたら写メ撮っておいてくれないかしら」

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