「中小企業買収の法務」第2版を刊行しました
6年の歳月を経て大幅加筆!
弁護士の柴田です。このたび中央経済社より、「中小企業買収の法務」第2版を刊行しました。初版の刊行が2018年9月なので約6年を経てのアップデイトとなります。改訂にあたり「ベンチャー企業」という言葉があまり使われなくなったことを受け、サブタイトルを「事業承継型M&A・スタートアップM&A」としました。
この6年間で私自身のM&A案件関与を通じた経験の蓄積や時代の流れに伴う社会の動きとともにアップデイトするべき事項がたくさん出てきたので、大幅に加筆しました。下の写真からも初版からのボリュームアップ度合いがおわかり頂けるのではないかと思います。古くなった記述や今となっては意義を失った記述を結構削ったのですが、これでも400頁弱の大ボリュームとなりました。価格ですが、これだけの増ページにもかかわらず3,400円から3,800円(税別)とわずか400円のアップにとどまり、中央経済社さんにはご尽力いただきました。お求めやすくしていただき感謝!
「中小企業買収の法務」とは?
「中小企業買収の法務」は、M&Aの中でも、中小オーナー企業の事業承継の手段としての「事業承継型M&A」と、スタートアップのIPOと並ぶEXITの手段としての「スタートアップM&A」にフォーカスを当て、その法務上の留意点について、実務上よく見られる「あるある」な架空の設例とともに解説した法律実務書であります。
本書に込めた思いなど、詳しくは初版刊行後まもなくの段階で受けたインタビューを見ていただければと思います。今見返すとろくろまわしそうな勢いの写真ですが・・・。
初版刊行後、ありがたいことにご好評をいただき、9刷と増刷を重ね、そして光栄にも2018年度の「M&Aフォーラム賞正賞」を受賞することができました。受賞式の様子などは下記リンク先をご覧下さい。
改訂のポイント
2018年の刊行当時は、本書が中小規模のM&Aにフォーカスしたことの目新しさもあったのですが、この6年間で本書の対象となった取引類型の案件数は増加し、ほとんどあたり前のものとなったとともに、新たに検討するべき論点も増えました。そこで、今回の改訂では法改正の反映や全体の記述の見直しをするとともに、主として以下の点を大幅に加筆しました。
① 設例を13例追加して合計50の設例に-ますます「生々しく」!
「中小企業買収の法務」の最大のウリは、関係者の方なら「こういうことよくあるんだよなあ」、そうでない方なら「そんなことあるのか!」と感じてもらえる、これらのM&A取引ならではの「あるある」の「生々しい」設例に基づいた解説です。今回は設例と大幅に追加するとともに、より理解に資するために既存設例の事実関係自体も見直しをして、(たまたまですが)キリの良い50設例となりました。以下は追加した設例の一例です。
大株主が死亡し、相続人が決まっていない株式の行方は?
株を買い集めようにも株主の行方がわからない場合どうする?
経営株主が従業員持株会からM&Aを秘して簿価で買い戻そうとしているが・・・
ご勇退して欲しいのに売却後もなお経営に関与しようとするオーナー経営者をどうしたらいい?
売主がM&A契約を弁護士に相談せずにそのままサインしたことの顛末は?買主にも大きな影響が・・・
② 事業会社によるCVC組成とLP投資の記載を拡充
初版ではM&Aがその先の延長線上にあるものとして、事業会社によるスタートアップへの投資を通じた「資本業務提携」に重点を置いて解説していましたが、オープンイノベーションの高まりとともに、事業会社はVCファンドにLP投資をしたり、自らCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンドを組成して、必ずしも業務提携を目的とした戦略投資とまでは言い切れない、どちらかというと純投資に近いスタートアップ投資を実行するようになり、私自身もこれらの取引に事業会社の立場で関与することが増えてきました。そこで、必ずしも業務提携を伴わないこれらの投資についての特殊性についても解説しました。
③ 新章追加ー「スタートアップ創設型カーブアウト」と「M&A仲介」
初版では総論(第1編)、事業承継型M&A(第2編)、スタートアップ投資・M&A(第3編)の3編構成だったのですが、第3編に新章を追加して、事業会社から新規事業に関与していた従業員が事業化されなかった技術とともに独立してスタートアップとなる「スタートアップ創設型カーブアウト」のストラクチャリングなどの留意点を解説しました。私もこれまで母体企業である事業会社や独立するスタートアップの立場から複数関与してきましたが、近時、経済産業省が「起業家主導型カーブアウト実践のガイダンス」を公表するなどして、ますます増えていくものと思います。
そして、これが大きなところなのですが、新たに第4編を設けて、M&A仲介と中小企業庁「中小M&Aガイドライン」についても解説しました。事業承継型M&Aを中心として、M&A仲介事業者のプレゼンスはこの6年でさらに大きなものとなり、それに伴い、様々な課題が議論されました。そこで第2版では、中小M&Aガイドラインや業界自主規制をもとに、プロセスに沿った解説をありそうな紛争の設例とともに行いました。M&A支援機関として中小M&Aガイドラインを遵守しなければならないM&A仲介会社さんにも参考になる内容になったのではないかと思います(実際、仲介会社はトラブルに巻き込まれることは珍しくありません)。M&A仲介については第2版脱稿後も大きく動いており、これからもどんどん変わるはずです。
最後に-社会はこれからも動き、実務も変わる
以上、第2版は重要な論点を網羅してこの取引類型のスタンダードといえる実務書になるよう試みました。
一方で、「本は出した途端に古くなる」と言われることがありますが、本書もご多分に漏れず、対象としている事業承継型M&Aも、事業会社によるスタートアップ投資も、そしてM&A仲介も、ものすごい勢いで動いており、脱稿後も触れておきたかった論点や論稿がいくつも現れてきています。正直言ってキリがないですね。社会の動きに応じて実務も変わっていくので、弁護士としての関与経験を引き続き蓄積させて、本書でまだ触れなかった論点や見直すべき事項などを別のかたちでアップデイトして行ければと思います(例えば、報道で話題となった経営者保証のM&A後の取扱いは大きく変わるのではないかと思います)。
最後になりますが、M&Aと企業法務の関係者の皆様におかれましては、初版を購読頂いた方も、そうでない方も、ぜひお手にとっていただけると嬉しいです。ついでに宣伝ですが、2冊めの拙著「ストーリーで理解するカーブアウトM&Aの法務」(同僚の中田との共著、本書と同じく2022年度M&Aフォーラム賞正賞受賞)は大企業の不採算事業の切り出しをテーマにしたものですが、こちらも、本書以上に生々しい(エグい?)ストーリーで取引の本質に迫っているのであわせて読んでいただけると嬉しく思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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