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急行電車にて

私は急行列車に乗り車窓から見える山々を見ている。
そしてとてつもなく緊張している。ここは私の席ではない。

台湾に来て4ヶ月、最初の方は一人旅をしてみたり長すぎる散歩をしたりしていたが最近は基本的には大学と大学の寮の往復になってしまっている。
土日はどこかに出かけることもあるが最近は読書にハマったりめっちゃ寝ることにハマったりで忙しく、大学の周りの「還好(まあまあ)」な店の味にも慣れてきてしまった。
だから生活には慣れてきたけれど、台湾に慣れている訳ではない。

私の住んでいる台中というところはまだ日本の旅行雑誌に取り上げられているようなところではない。台湾と言ったら台北。通な人は台南。台中だけ浮き彫りにされている。
それも分かる。日本から台中空港への直行便はほぼなくて(1週間に1回くらいはあるらしい)交通が不便だし、敢えて来てくれたからと言って何を紹介していいのか、正直私には分からない。
分からないけど、すごく好きなのだ。

台中に到着して最初の2ヶ月くらいは、どうして留学先を台中にしてしまったのかとすごく後悔した。
文化がない。音楽がない。おしゃれじゃない。そんなことばかり言っていた。
そしてそれは確かに一理ある。日本でいう名古屋だと言われているらしいけど、名古屋と同じく台中出身のパンクロックバンドが結構いるらしい。
あと、ライブをやっても集客が難しいらしい。「日本で東名阪やっても名古屋が一番集客難しくないですか?」と台湾のブッキングの方に言われてやけに納得した。

そんな街、名古屋。
じゃなくて、台中。

昨日は行きつけの朝ごはんやさんの店主に羽毛布団を貸してもらった。
いつも通り朝ごはんを食べていたら「毛布、ある?」と日本語で聞いてくれた。
「綺麗な使ってないやつ、あるよ。あげる」と言われて次の日受け取りに行ったけれど、毛布でもなければ綺麗でもなかった。笑
「ごめん。破損!」と言われた。流暢な訳でもない日本語の語気の強さにちょっと笑った。

とりあえず暖かさは必要なので大きいホームセンターに行って布団カバーを買った。
寮に戻ってカバーを取り付けようとしたら2段ベッドに入らないほど大きいセミダブルサイズの羽毛布団(のさらに中身だけ)でフリーズした。
無理やりシングルサイズのカバーに入れたら謎の生命物体みたいになった。コインランドリーで洗濯。暖かいのでなんでもいい。おじいちゃん、ありがとう。

とにかく人が優しくて、ずっと晴れていて、物価が安い。
台中に来て最初の方に言われた台中の良さは本当らしい。疑う余地がない。

台中に着いて3日目で友達の友達の家族にご飯をご馳走してもらって車で夜市に出かけた。
なんかご飯食べに行ったら俺の親戚が日本人だ!と言われて(その日本人は台中に住んでもないのに)ラインを交換させられる。
マッサージ屋に行って眠くなったらマッサージ終わってるのに「寝てから帰りな!」と言われて本当に1時間くらい爆睡させてもらう。

そんなことばっかりだ。本当にすごい。悪意がない。見返りを求めてる感じでもない。
ここは安心できる場所なのかもしれない。
というか、ずっと安心できないところにいたのかもしれない。

好きな台湾のインディーズバンドを見に台北に向かっている。
急いでる訳でもないので新幹線ではなく急行の電車のチケットを買ったら、なんか間違えて「無席」と書いてあった。席がないらしい。
困った時のGoogle先生に聞いてみると「自願無座」という、席が空いてれば座ってよくてもし人が来たら立てばいいらしい。
なんてクリアな発想なんだ。全ての国と全ての土地がそれでいいような気がしてきた。

しかし私は緊張している。誰かが来たらどうしよう。怒られるのかな。
多分怒られない。というか怒ってる人をほぼ見たことがない、この4ヶ月。すごいことだ。

ここは安心できる場所だと自分に言い聞かせて、少しだけ肩の力を緩め、引き続き山々を眺めることにする。


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