「動かないボーナス」④

　ウーゴ・金井・ボナシュー。それが男の名だった。て、何人やねん？　生まれたのがイタリアなのでウーゴ。母親の旧姓はカナイ。そして受け継いだ姓がボナシューさ。三国志だか三銃士だかで見かけた名前だね。きっと中国人かフランス人なのだろう。
　そいつがオレの会社の役員としてやって来たのは世紀末と呼ばれた頃だ。その後会社の業績は破竹の勢いで伸びて天の金蔵を突き破り黄金の雨を降らせたらしい。だがオレは雨の恩恵に浴していない。なぜなら本来の意味でのボーナスは報奨金であり破竹の原動力をもたらした将が手に入れるものでありノコノコとついて回った兵にまではまわらないのが常であったのだ。
　とはいえ海外旅行に行くくらいのボーナスは出た。搭乗口で「動くな」と言われ立ち止まった。ボーナスなら現地通貨に替えてポケットにある。そのときどこかの大きな荷物が通過したようだ。
「よし、行け」
オレは確かに動かなかった、言われた通りに。ボーナスは知らないが。

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