立法権の思い出
日直が誰だったのかもう知るすべもないが、放課後の黒板には『立 法 権』の文字だけがクッキリと残っていた。社会科の教師のクセのある字体。ふとチョークを手にとり『子』の字を『法』の下に書き加えてみる。アイドルの名前。『権』の下に『太』。権太は僕の名だ。そのときバタバタと忘れ物をとりに現れたのは立花聖子だ。ウッ、やばいところ見られちまったぜ。
「パパ、あたしクラス委員に選ばれたよ」無邪気に報告する娘法子。黒板の法子の名の下に続々と正の文字が書き込まれていく様子が目に浮かんだ。
「良かったね。いつかあたしも国政に打って出たいもんだわ。いまは町内会の班長だけど」
妻は冗談のように応えた。
「次期市長に立花権太をよろしくお願いいたします」
国政への道は遠い。
聖子はツカツカと歩み寄り、チョークで『立』の下に花と書いた。
「花子太? 駄目だ、アハハ難しいよねクロスワード」
コイツ意外といい奴じゃん。よく見ると法子に似ていなくもない。
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