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「ビール傘」小坊編

「もう一軒いくぞハシゴだ!」
またなの?大変ね。
ママの声はキンキンに冷えてる。 
ねえママ、パパのお仕事って『ビール傘』なの? どうしていつも帰りが遅いの? 
ママどうしてそんなにイライラしているの? 
ボクは心配でたまらない。

 そんなときだ。クラスのアイツが声をかけてくるのは。
「ビール傘? 知ってるよ、ついて来な」
そこはデパートの屋上だった。
日が差しているうちから大人たちがビーチパラソルの下で楽しげにジョッキを傾けている。やがて日が暮れた。提灯に灯りが点る。パァンという音とともに夜空に大輪の花が開いた。今夜は花火大会だった。そのとき、バーベキューのコンロが火を吹いた。酔った誰かが間違えて火に油を注いだらしい。阿鼻叫喚。逃げ惑う人々、
サイレンが響く。
逃げ遅れたボクはベソをかいた。
「しっかりしろ!」
「ママに心配かけるなよ」
「友だちは選べよ」
そうかボクのパパのお仕事は、ビール傘じゃなくてビル火災などの消化活動だったんだ。

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