メガネ朝帰り
「これは看板だと思う」
彼がそう言って指し示した板には文字が刻まれていた。
「『名月や
門にさし来る
潮がしら』
ああ、それは芭蕉の俳句ですねたぶん。何でここにあるんだろ?」
すると彼は気取って答える。
「わからないかねワトスン君。575の頭を読んでごらん。名門潮、そのまま下に がし だ。これは和菓子屋の看板だよ」
「潮菓子って? しょっぱそう」
ワトスンと呼ばれたことはともかく。
「そうだ、こういう看板でいきますか、田原先生の『想い出ショコラティエ』みたいな洋菓子店を出すんです。
『明月や
ガトー(菓子)の美味い
根谷千店』
なんてどうかな」
「かなり無理があるね。世間で谷根千で通っているのを根谷千にしたのが致命的だよ」
やれやれ、最後の一行を「潮がしら」に戻すか。でもそれじゃ、メガネにならないし、朝帰りじゃなくて潮帰りだよ。
「そんなことより、どうやってここから帰ればいいのか、そっちが問題だよ。ここ月面だし」
405文字
※「想い出ショコラティエ」は田原にか先生の「嘘みたいな本との話」に収録されている短編小説です。
しみP様の京都出町柳の阿闍梨餅が美味しい「満月」様の写真を使わせていただきました。
たらはかに様のお題に参加しています。
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