見出し画像

「ふりかえるとよみがえる」いえもん編

「えっ今何言うたん?」 
ゐわの瞳は大きく見開かれた。
「俺、医学部行こう思うんや」
ことの起こりは不正入試事件だった。官僚が有名大学医学部に贈賄して息子を不正に合格させたことが発覚し、あおりで不合格を食らった俺の繰り上げ合格が認められたのだ。5年も前の話だが。俺は浪人生となり予備校でゐわと知りあい、高卒で婿に収まっていた。
「あんたがお医者になりたいんやったらうちは反対せえへん」
ゐわがまったり返事をする。
「ほんまか。ええんか?」
俺の脳裏に吉良星のごとく若い看護師や美人患者がよみがえ、
ることはなかった。
「冗談や。あの時点で十浪しとった。危険でしんどくて世間の風当たりも強い仕事はゴメンや」
ゐわは冷蔵庫を開くと緑茶のペットボトルを出してきた。
「これ飲んで、も一度よう考えよし、伊右衛門はん」
もう振り返らない。もうよみがえらせない。二人でごくごくと冷えた茶を飲んだ。




そんな二人をものかげから腫れた瞼のお岩がじっと見ていたとは。

410文字


これは某ドリンクと某鶴屋南北から想を得たものですが、悪い男とは何か? その影には甘やかしたり狡く立ち回ったり加害者か被害者かはたまたマドンナかよくわからない女がいるかも知れないという話のつもりです😅

たらはかに様の企画に参加しています。

いいなと思ったら応援しよう!