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大増殖天使のキス 舞いあがれよ編

「えーと、天使のキス!」
髪はモサモサ、白地に星の隈取りの女が口を切る。すでにかなり酔っているな。本気で言っているのだろうか? あれは違法薬物を仕込んだカクテルだぞ。当然自分などに提供できる代物ではない。
「やめとけって。天使って柄じゃないだろ」
連れの男が宥める。
「あたしのどこが天使じゃないのよ」
女は口をとがらせて絡む。
「まず翼がないよな」
待ってましたと女は懐から何か取り出す。
「ジャーン、イカロスの衣装!」
こいつらバンドじゃなくて劇団員だったのか。「あのお客さん、」
すると男が
「うーむ、羽根だあ」
とのけぞる。
「ほら見てみ、あたし天使だよ、ね、ね、天使だからさ、天使のキス!」
女はしつこくごねる。
 天使のキスジャンキーが増殖しているという噂は本当だったんだな。困った。早いとこ出ていってもらいたい。
「着きました。羽田です」
「だめだ。天使には輪っかがある。キミにはない」
「わっかないね!」
「稚内ですか」
仕方なくまた走りだす。

410文字

女はバンドマンふうのモサモサ頭だったので天使の輪っか(つむじ周りの光沢)がありませんでした。


たらはかに様のお題に参加しています。

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