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世界一しょぼい タイムスリップ ①
涙が出てきた。どう見ても一番しょぼい。
授業参観にいってみると他の保護者はすでに教室の後ろに並んでいた。問題は廊下に展示出された生徒たちの図画工作だ。たぶん夏休みの宿題の使い回しだ。保護者の手どころかAIの手が入っているとしか思えない力作もある。アクリル絵具、顔料、墨はもとより砕いた天然石、鶏卵に色素を混ぜた混ぜたものなど価格をつけたら材料代だけでもかなり高額になりそう。絵も決して下手ではないのだ。教室に通わせ払った月謝はいかほどだろう?
「あなたも泣いていますね」
声をかけられ振り向くと老婦人が眼鏡をずらして目にハンカチを当てている。教室から聞こえてくる児童の作文の朗読にやられたのだろう。
「はい」
それ以外にどんな返事をすればいいの? 廊下に張り出された私の顔に同じくらい下手な字で「うちのおかあさん」とクレヨンで殴り書き。しかも雑誌タイムの今年の人物を模した表紙の額に収まり見事にスリップしているのを前にして?
410字
大泥棒石川五右衛門とその母は現代にタイムスリップしていた。息子のしょぼいパクリっぷりに母は絶望したが、お陰で彼は釜茹でにならずに済んだのであった。
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