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「みんなで動かない」③

 みんなで動かない。足に根が生えたように立ち尽くしている。ほんの一瞬だったかもしれないが、永遠に続くように思えた。閉店間際のパック惣菜売り場で店員が次々と値引きシールを貼っていく。そのまん中で一人の老婆が陣取って一点一点に鋭い視線を送っていた。
(あの人早くどいてくれないかな。わたしだって選びたいのに)
(しょうのないおばあさんだわ。高齢のあまり空気が読めないのね)
店員はシールを貼り続ける
(さあもうすぐ閉店だ。どんどん売れてくれよ)若い女がにゅうっと腕をのばして半額シールのついたパック寿司をわしづかみにしてカゴに入れた。
ふうっと、ため息をついて老婆はその場をはずれた。獲物を逃してしまった。迷ったせいだ。
「あら、おかあさん」さっきそばに並んでいた女の一人が初めて気づいて声をあげる。
「いつからそこに? ちょうど良かった。ヒロシももうじきバイト時間終わるし。母の日には早いですけどみんなで動かないお寿司屋さん行きませんか」

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