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手加減無用鍋 ②

 冬の味覚といえば鍋。おとなりの赤い大国では大勢で一つの鍋を囲むことはなく一人ひと鍋だ。しゃぶしゃぶなど好みの出汁に好みのタレ好みの具材を注文しひとりで食べる。鍋奉行や灰汁代官の顔色を気にしたり、全員に主菜の肉が均等に行きわたっているかさりげない監視を怠らず素早く菜箸を動かす、出汁が煮えて減ってきたら足すといった配慮も必要ない。鍋が大好きな家族にその話をしたところ、全員が大賛成で、だったら自分はコッテリした辛い出汁に柑橘系とゴマだれ、肉は鉋をかけてロールがかかった薄手のラムでいいかな、やはりオーソドックスに昆布出汁に国産牛だね。と口々に語り出した。母さんは焦る。だったら具材はともかく、お一人様用土鍋とコンロを人数分用意しなくてはね? 父さんは安堵する。だったらおとなりの赤い大国行きのパスポートとチケットは取らなくてもいいんだな。もっともビザはもう必要ないが。そこでみんな「それいいね」とピザを注文しましたとさ。


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