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アナログ巌流島 デジタル混入編

 コンサートホールの岸辺にチューニングの音がひたひたと打ち寄せ始めた。やはりアナログいや生演奏は良いものだ。いわくつきのピアノ協奏曲「巌流島」。指揮は宮本武蔵でピアニストに佐々木小次郎、そしていつものM交響楽団。湧き起こる咳払いに期待感も最高潮に達した。それと共にステージ上部の電光掲示板に宣告文が春の泉のごとく流れてきた。
「『巌流島』は「贋流島」だ。AIが作った曲をデジタルピアノが自動演奏している」
観客は見えていないのか、静寂で応えている。宮本の振り上げた指揮棒が午後の日差しにギラリに光る。佐々木の構えた腕とは裏腹に燕尾服の裾がピンと飜る。二人は一定の間隔を保ちつつステップを踏む。混入してきたのはどこかで見た演出だ。闇夜の濁流は完璧に漆黒のアナログレコードを意識している。斬られた私は溝に落ち横転し針に追われて悲鳴をあげる。ついには中心のラベル付近にに押し上げられ、スピーカーがプツンプツンと耳障りな音をたてる。

410文字

演目終了後、客席にはペンを手に独自のレビューを書いて依頼主におくる人工知能らの姿があった。
 
一日一更新を目指していましたが一週間七作になり連続投稿が途切れています。


たらはかに様のお題に参加しています。

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