「ビール傘」結婚式編
ねえ乾杯の音頭はアナタがとるのよねと十回目の念押しをすると夫は夫であたかも初めて耳にしたぞという反応を返す。あっちはビルを所有しそれを嵩にきているんだよな、耳にタコができるほどきいたぞ。
娘も年頃、そろそろと案じていたところ願ってもない良縁、のように見えるかもしれない傍目には。真夏に日傘を差した色白の彼をビール機嫌の娘が見初めた、というのが私の知る真相だ。我が家は老舗地ビール醸造家だが子どもは娘一人きり、色白の彼もまた一人っ子。婿にきてくれればと口にはしないけれど、どうにかなるんじゃないかと甘く見ていた。
見ると取引先のライヴァル会社のやり手オーナーとして業界紙を賑わせている男がそこにいる。これで御社も弊ビールグループのの傘下に。
ひとつどうかよろしくと首と瓶を傾けるとピルスナーと黒ビールが混ざり合って泡立つ。三毛子とシロくんが赤い和の相合傘でゴンドラを下りてきた。祝福の一気コールとビールかけが始まる。
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