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最後のマスカラ 仮面の孝行編

 三日月状に染められた瞼が午後のひとときをお喋りで過ごす女優さんのような母。ティラミスを手渡す。冷蔵庫にはすでにうす緑の葡萄があった。壁のスピーカーからカヴァレリア・ルスティカーナが流れ棚には中世史を公家視点で綴った歴史書。
 妹はどこ? 目当てのモノは。
「これからの話をしましょ。あたし子宝に恵まれたわ、心からそう思う。病は気から? いえ人生七十からよね」
私の言葉など天から聞かずに捲し立てる。目力。見るからに元気そう。
「カラ元気よ喉がカラカラ」
からっと言い放つ。それだ! 父さんにもらったエンゲージリングの1カラットを余生の介護をしたらくれるそうね余命僅かの母さん? 
「大した物じゃないわ。葡萄食べててあの人が種をぺっと出しコレよりはデカいぜって、」
さっきの葡萄だ。しまった。もぬけのカラ。ヤカラにしてやられた。 母の瞼のシャドーがヨーロッパブドウの光沢を放つ。

 テーマ曲を聴くたびに渋い思いが胸に去来する仕掛けとは。

410文字

たらはかに様のお題に参加しています。


はっと気づいたら今週七作目⁉️ ティラミスの原料はマスカルポーネ、カヴァレリア・ルスティカーナの作曲はマスカーニ、そして増鏡。後二作の主題は「裏切り」です。このへんは非田丸式マスとカラの出てくる最後のSSです。シャインマスカットは種無しと気づいた語り手ですが、本当は自分が一番マスカレードでした💦


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