愛は犬 イライラする挨拶代わり編
愛は犬にだけは惜しみなく燦々と注いできた。仕事や友人はともかく人生に犬を欠かしたことは一度もない。たとえ缶詰一つペットボトルの水一本を支給されたとしても犬と二人仲良く分かち合ってきた。雨が降ろうと槍が降ろうと必ず犬を土管の外に連れ出して日に二回散歩をしてやるのが俺の日課だ。
「あんたまだそんな暮らしをしているのかい」不意に声をかけられて振り向くとガタイの良い男が立っていた。はて人間に知り合いはいなかったはずだが。いやどこかで?
「挨拶代わりだ。取っておけ」
何やら包みを手渡そうとする。
「結構だ。もらう謂れはない」
すると相手は磊磊と笑い
「変わらんな」
と言い残し立ち去った。
このモヤモヤはなんだろう。思い出した。あいつだ。生まれて初めて飼った犬。犬だけは絶対に裏切らないと知るキッカケになった犬。そして初めて死んだ犬。人に生まれ代わっていたのか。微かな苛立ちを堪えつつ
「来来世また会おう」と小さく挨拶した。
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