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星が降る ①

 星が降るのを見たことがあるかって? ずいぶん昔に思えるわ。私にもまだ家族がいて、車を持っていて、たまの休日にはドライブなんかしていた頃。あの日は群馬県を抜けて軽井沢に向かう途中だった。シートベルトとかチャイルドシートとかそこまで神経質になっていなかったような気がする。
「見て。星が降ってるよ?」
「雪?」
「星だってば」
確かに路上に星がキラキラと積もり始めていた。
「スリップに気をつけてね」カーブに差しかかりスピードを緩めときだ。何かが破裂したかのような音が響いて全身に衝撃があった。パンクかしら? 停車して様子を見ようとしたら、脇をどこかの車が猛スピードで走り抜けて行った。まだ新しい車の後部がグシャリと凹んでいた。

「マーくんち、追突されたんだって?」
普段は言葉を交わしたこともない公園常連の保護者たちが馴れ馴れしげに話しかけてくる。
「誰に聞いたんです?」
「もちろんマーくんよ。大変だったね、安中ですって? 警察も来たんでしょ?」
どうやら言葉の遅れの心配は皆無だったようで、幼い息子は質問されるままに起きたこと見たこと体験したことをスラスラと答えることができたらしい。当て逃げした車の色も車種もナンバーも彼は目撃していた。
「それ、もしかして、あそこんちの車かもよ? この前買い替えたらしいけど」
色々あって犯人ホシは投降したらしい。私といえばそのときの衝撃がもとで。
まだあの星の住人だった頃の話。


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