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「ちゃりんちゃりんたろう」

 猛暑の八月もこの境内の木陰にいればいくらか涼しい。時おり吹き抜ける風に私たち風鈴はカランコロンと心地よい音色を響かせる。
 私は、いちりんの福の神花子。朝顔の描かれた丸いびーどろの外見から細長い舌(ぜつ)をぶら下げ、ロング丈の短冊をひるがえしながらチリンチリンと可憐に歌う。あら自画自賛してしまったかしら? でもここには大勢の仲間がいるから少しくらいアピールしないとね。
 すぐ横からチャリンチャリンとかなり個性的な音がする。見ればどうやら殿方だ。シックというより質素な素焼の外見に古ぼけた硬貨が当たってそんな音をたてているようだ。
「あなたもしかして商売繁盛さんかしら。ここは縁結びの神社よ」
私は親切に教えてあげる。自分が何年ものあいだ売れ残っているものの短冊をトレンドのものに付けかえては何食わぬ顔でぶら下がっていることも。
「左様か。拙者は元々は合格祈願の出であった。それがここにいたせいで幾度となく浪人の境涯に」

407文字

セール品花子もチャリンチャリン多浪もご利益的には謎ですが夏の風物詩には変わりありません。


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