「ポケット大増殖」④ あるいはピカピカチューリップ

　うちの両親のなれそめは実をいうとよくわからない。二人が同郷人で同級生だったことは戸籍などの客観的証拠もあるし、祖父母という証人もいる。だが結婚に至った流れとなると、双方の供述に食い違いが生じるのだ。父によれば
「就職が決まって喜んでいたら勤務地は故郷から離れた場所だと知らされた。当時付き合っていた彼女になんて説明したらいいんだろう。そこで助手席で居眠りしていた母さんをポケットに詰め込んでそのまま走り去ったんだ」
一方母は
「父さんとドライブしていたらラジオからあの有名な歌が流れてきたの。ははん、うまいこと言って逃げる気ね、すぐにわかった。やれるもんならやってみな、私はポケットにもぐりこんてやったのよ」
　もはやどちらが本当かなんてどうでもいい。いずれにしてもその大増殖というか大伸縮する便利なポケットは実在するようだ。

「警察です。あなたたち夫婦は50年前バイト先の店で商品をカプセルごと盗んで電車で持ち去りましたね？」

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