戦力で押したいお洒落

「ちょっと奥さん、本日金曜日は戦力ゴミの日よ」
隣のゴミおばさんがわざわざ我が家の玄関先まで廃棄物を引きずってきて文句をいう。成程それは別のゴミだ。私は覚えがないけれど。回収車が半透明の袋に詰め込まれた戦車や機関銃やミサイルを集めては圧縮している。戦力の放棄が憲法に記されて以来の光景だ。おばさんの手にあるのはビューラー爪ヤスリにマイナスイオンドライヤーといったお洒落ゴミだ。
「ええっ金曜日は金属の日だとばかり思ってましたあー」
隣の隣の金髪のお姉さんが長すぎる睫毛でバタバタと発電できそうな風を起こす。
「予言しておいてあげる、いつか必ずお洒落ゴミの火曜日が訪れることを」
おばさんは風にひるがえるスカートのスソを押さえながら宣言した。確かに起こりうる未来だ。『贅沢は敵だ』のスローガンのもと若者たちが一斉にお洒落する権利を奪われて四日前に回収されプレス再生された武器を手に戦地に押し出されるのだ。歴史は一習慣で繰り返される。

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「そっか。火曜日はエステにかよう日だからですねえ?」

たらはかに様の企画の裏お題に参加しています。


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