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穴の中の君に贈る ホラー編

 書斎に忍びこんで本棚の奥にしまいこまれたあの人の古いアルバムをこっそりと開いた。オモチャを手にした幼き日のあの人がいた。筒を手に校門の前に立つ若き日のあの人も。そして次のページのまん中に穴。何かを剥がして丸く切り取り周囲を丁寧に修復してある。その穴の向こう側からのぞいているのが私たち二人の記念写真だ。私としたことが微笑もうとして却って口元をひきつらせている。角隠しが眉のすぐ上まで被さっている。あの人の目が笑っていないのは気のせいだろうか。
 私は部屋のなかをくまなく探し始めた。穴をうめる失われたピースを。丸く切り取られた女の顔写真が近くにあるはずだという確信に取りつかれていた。
「何を探しているの? まさか僕の元カノの写真?」
あの人がそこにいた。
「そんなものはないよ」
丸く穴のあいたページをめくってごらん。飾りの台紙に隠れていた四隅に浮かび上がるのは恨めしげな顔顔顔顔。思い出したわ私の持参金が保険金だったことを。

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