懐かしい ①
「懐かしい」
声をかけてきたのは確かに見覚えのある顔だ。参列者アルバイトの仕事を続けていると同業者に出くわすことが少なくない。今回の私の役どころは新婦の親戚だ。もはや友人では不自然だろう。留袖が暑苦しい。相手は以前に会ったどこかの葬儀に参列者のようだった。その前は同級生だったかも知れない。
「最近じゃ当然ライスシャワーなんてやりませんしね」
「立食パーティーで握り寿司が出ることもなくなりました」
「これは奮発しましたね」
引出物は米粒に描かれた新郎新婦の似顔絵だった。
「ごめんなさい。本当はあなたとどこでお会いしたのか覚えていなかったの。でもいまようやく思い出しました」
遠い昔にコンビニでアルバイトをしていたとき、二人で一緒に伝説の伝統食を棚に並べた仲だった。いや、もっと前があった。住宅地になるまえの金色の稲穂が揺れる田んぼの畦道を通学しましたよね。
「おにぎりとかいいましたっけ」
「そう米」
「懐かしい」
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