伝説の安心感 ①
担当者は私に椅子をすすめると
「今朝の体温は平熱でしたか」
ときいてきた。ここでいいえ熱がありましたと答える人がいるのだろうか。
「脈拍は平常どおりですか」
「はい」
「血圧は」
「計っていません」
血圧計が出てきた。両脇を白衣の若い女性にはさまれ腕をとられる。もうなんだって好きにやってください。体重だろうと視力だろうと胸部画像だろうと好きなだけ見て血だって抜いて調べてくれていいですから。とはいえこれは就活のはずだ。うっかりと採用してしまったあとで病気三昧で健康保険証を使いまくられたんじゃかなわないというつもりだろがこの圧迫感。やっぱり噂は本当だった。
『面接の健診感』
あれ、ちょっと違うかも?
「一度胃の内視鏡検査とエコーも受けたほうがいいですね」
ふう。
部屋の外ではお婆さんが
「ねっ、この通り関節の渾身感」と自分の膝をポンポンとたたいている。
やだっ、ここ面接室じゃなくて診察室?
中庭の向こうに墓地が見える。私の居場所だ。
408文字
「ことしも現れましたか。不採用だった看護師志望者」
「安定の都市伝説感」
たらはかに様のお題に参加しています。