接吻代行 ①
登場人物
山本マユミ 34歳。吉田ヒロシと交際中。軽井沢の教会での挙式を夢見ている。
山本タケシ マユミの父親。元レスラー。娘を目に入れても痛くないと公言し何度も交際相手をマットに沈めてきた。
平山イワオ。趣味で映画を撮影するボンボン。目下ニューシネマパラダイスのリメイクを目論んでいるが肝心のカットされたキスのラストシーン集めに難航している。
田中シロウ 『節分大好物』という商品を開発していたがホームページ作成代行業者に『接吻代行』と変換ミスされてしまう。
吉田ケイコ ヒロシの母親。息子が30歳になっても子離れができない。
小川マサル 国会議員。感染症の拡大を阻止するために議案『接吻禁止法』を作成中。
中野アサコ アバター同士によるキス動画を作成し小川の一派につけ狙われる。
島田ヤスシ 爆弾処理班。
各々の思惑が入り乱れるなか司会の田中がマイクに顔を近づけた。
「皆さまお待たせいたしました。新郎新婦の入場です、
シナリオを書きながら父タケシの心はどんどん虚しくなっていた。いいじゃないか。誓いのキスくらい。いいや駄目だ。あんな奴。こうなったら他の奴など当てにするものか。俺が自力で阻止してやる。ああっ、二人はすでに向かい合っているじゃないか。神父が小声で
「では先ほどの予行演習どおりに」
と耳打ちしたぞ。
新郎の口元は紅色に染まり、母ケイコがワナワナと震え、その手元にはヒロシが依頼した接吻歴調査報告書よりもかなり分厚いファイルが握り締められていた。
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