最後のマスカラ ②
桃の皮は果物ナイフで剥く。手で剥すと思春期の少年の肌に似たざらりとした舌触りでそれも一興なのだが、ここは切断面から溢れる果汁の瑞々しさを取る。波打つ髪はモカ風味のクリームにした。巨峰を細工した瞳、ピンクグレープフルーツの唇。
フルーツパフェコンテストのお題は「モンロー」だった。選りすぐりの材料と技術力で顔はソックリに仕上がったが画竜点睛を欠いた。目元だ。チョコで細くまつ毛を描く。失格のブザーが鳴った。やれやれカロリーオーバーか。最後のマスカラは蛇足だったな。隣のグループはアイスクリームの全身像だ。そこにあの5番の香水を? ちょっと違うんじゃない?
「優勝はCチームです。なかには勘違いされたチームもありましたね? お題は『モンシロチョー』ですよ」
優勝作品は純白のかき氷で出来た4枚の羽、仕上げに極細ポッキーの脚と口と触角に細かいブラシで水飴を塗りボリュームアップさせていた。
いわく、猛暑も我らに味方しますから。
410文字
たらはかに様のお題に参加しています。
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