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激辛の鏡 ②

「味つけに砂糖や味醂を使うのは邪道です。素材の甘みを生かしなさい」
辛口料理人の指導はライバルのレシピを貶すことから始まる。
「師匠、ご飯を噛むと確かに甘いです」
デンプンがだ液のアミラーゼと反応したせいだった。

「肉や魚や野菜にはすでにうまみ成分が備わっているのです」
体内にあるものを毒とは言わない、だからこそ怖いのだ。などと続いた気がするが滅多なことは言うまい。

「酸味は檸檬や柚子で、塩味は素麺を茹でこぼさなければ手に入ります」
いったい何のための正道、健康、財布、環境、 伝統、それとも意地? 

食器棚のガラスが鏡となって映し出すのは料理の辛口指導者であった母の顔そのもの。
「古いね」
娘に笑われる。
鏡をスライドさせると期限切れの山葵辣油一味唐辛子マスタードハバネロタバスコジョロキアデスソースコーレーグースバッファローソースが林立している。激辛を禁止する教えはなかったので目についたら購入していたが使う機会もなかったのだった。

410文字

フィクションです。

たらはかに様のお題に参加しています。

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