音声燻製
エレクトーンの生演奏が流れはじめた。ドライアイスのスモークがたかれてゴンドラが降りてくる。やや古くさいがとにかくここまで漕ぎつけた。例の契約がうまくまとまったのを機に思い切ってプロポーズしたのだ。
「こちらは定期的に床下や屋根裏を燻蒸するタイプです。こっちは奴らの嫌がる音波を流して寄せつけないようにします」
「どっちも良さそうね。思い切って両方いただこうかしら」女性客は身をくねらせて流し目を送ってきた。
「ありがとうございます」(おかげさまで目標達成です)営業成績はトップだ。知り合った彼女といい感じの交際が始まった。デートのディナーで指輪を渡そうとした瞬間、目の前は真っ白な煙で覆われ耳の中は不快な音で満ちた。やられた。来世はできれば人間になりたいものだ。ぼやける意識のなかてエレクトーンの調べが聞こえた。
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