壁に少々らっきょう ① #毎週ショートショートnote
「外壁の塗り替えにまいりました」
「いきなりストレート過ぎない? 例えばキャンペーン期間だけの料金ですとか、近所の現場で作業中の足場の費用がお得とか、角地のモニター価格でやりますとか、屋根の上からじゃないとわからない重大なヒビ割れが運良く発見されましたとか、モノには言いようってもんがあるだろ?」 呆れていると、その生っ白いヒョロリとした営業マンは縦にスジの入った黄ばんだ顔色で酢っぱい息を吐きながら、
「お宅の地下室の壁のことですよ」とニヤリとした。そう来たかね。これは少々ラッキーというものだ。ちょうどシロアリが居ないか、見てもらいたかったのですよ。すぐ下にご案内します。
「カタコンベにようこそ」
「なぜあの家に目をつけたんだ?」
らっきょうは答える。
「土台だよ。数年前あそこを塗ったきり戻らなかった作業員がいた。彼はらっきょうが好物でそのとき苗を買って持っていたんだ」
壁際に薄むらさきの可憐な花がためらいがちに咲いていた。
410文字
たらはかに様の裏お題に参加しています。
たらはかに様、出題ありがとうございます。おだいじになさって下さい。
らっきょうは、種でなく苗で増えると知り一部訂正いたしました。
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