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Photo by
kuwagatg_bass
もじもじ社
「Hello, anybody home?」
若い頃の父親がいじめっ子に宿題の代筆を要求されている。映画を見ながら僕はため息をつく。こんな目に遭う心配はない。だって僕は書けないし読めないし話せないのだから。
「今に治るさ」
グランパは優しい。日が暮れると館の庭園の森のなかのパビリオンに手を合わせている。僕が治るよう祈っているのだ。内部には細かい模様があった。
「モシモシ、ダレカイマスカ?」口のなかでつぶやくと木々がザワっと揺れた。
館に戻るとグランパがお腹を押さえて倒れていた。咄嗟に僕は電話をかける。
「Hello, this is MOJIMOJI、an old man looks pale and maybe he has a stomachache, ambulance please.」
電話の向こうがザワザワしている。
『ガイジンだぞ』
『なんだって?』
血が逆流した。
「早ク、オジイチャンヲ助ケテ!」
電話番号から特定された住所に救急車が来た。
「ネ、土、全部読めるよ」
「いざとなればしゃべれるものさ」
庭の社の祠の模様は文字だった。
子連れ留学先で再婚が決まり祖父に僕を預けた母から帰国すると報せが来た。
501字
文字文字のやしろはモヂモヂの木でできています。
※一行目の映画は『バック・トゥ・ザ・ヒューチャー1』です。
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