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風雷 #うたスト

 本を開いてはじめて『坊ちゃん』の世界に飛びこんだ日、僕は坊ちゃんと一体化した。キヨはいなかったが偶然にも両親に疎まれて、見知らぬ土地に移り学校通いする羽目に陥っていた。下宿では人の好い老夫婦にお茶を入れてもらい一日中本の世界に浸っていても怒られず、団子と温泉を満喫していた。赤シャツも野だいこもいてあまり好きでなかったがいずれ成敗されると知っていたからさほど苦にならなかった。うらなりくんと山嵐までいたあの当時は。実家のように外で揉め事に巻き込まれるたびに親が呼び出されて気まずい目に遭う心配はない。本を開いて頭にのせると屋根のよう。雷鳴が小さく響く。世界は遠ざかり小さな文庫本に収まってしまう(ゴロゴロゴロ)三冊読んだ。

 何だどうした、二階から落ちたのか? しっかりしろ! まだ数行しか読んでいなかった。

 風は吹き荒れ雷鳴とどろく、僕は坊ちゃんじゃない、誰かが悪を退治するだろう、誰かが賞を獲るだろう(ゴロゴロゴロ)

410文字


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