執念第一 🛸
あれは幻覚だったのだろうか。雪の夜、些細なことで両親が諍いをしていた。
「お前なんかと一緒になりたくなかった」
と父。すると母が言い返した。
「なら教えてあげる。この子あんたの子じゃないの」
そこからバツイチの母とネグレクトされてパンイチの僕と続くと思うかい?
ずっと頭に引っかかっていた。あれが事実ならば本当の父親はどこにいるのだろうかと雪が降るたびに思い出し懊悩した。執念第一で追求し続けたのさ。屋根裏部屋に続く階段、その一番奥に禁断の糸車の部屋があった。あの日から十年がいくつか過ぎた今日初めてその扉の向こうを覗いてみた。眩しい光にみちたその部屋のなかで折り重なっていた妻から離れたかれは唯一の簡素な身繕いを整えると過ぎ去った時間の形の居処へと戻ってその場で再び動かなくなった。眩ゆい光源をたどると降り頻る雪の空に満月の形をしたちょうどこの子の頭上にある輪っかみたいな物体に何かが吸い込まれていくところだったよ。
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