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ごはん杖 ③

 親父は古ぼけた杖しか残さなかった。それを持ってある定食屋にいくと、なぜか頼まないのにご飯は大盛りになり一品余分におかずがついてくる。不思議に思っていると、近所の民話研究者がその杖を見せてくれという。
「やっぱりそうだ」と、こんな話をしてくれた。

 ある国の民話に旅人のステッキというのがある。貧しい身なりの男が宿屋に泊まりにきた。店主が物陰から見張っていると魔法のテーブルクロスを広げ、そこに勝手に現れる料理を食べている。店主はそのクロスを盗もうとした。するとステッキが「泥棒!」と叫び店主を叩いたという。※

「これがそのステッキ?」
民話研究家はうなずいた。
「あの定食屋のテーブルクロスはその片割れですね。相棒にはついサービスをしてしまうのですよ」
 なるほど親父は碌でもない奴だったが珍しい物を持っていたんだな。

「それで息子はちゃんとやれていますか?」
自分がいると自立できないと姿を消した男は定食屋にこっそりと包みを渡した。

410文字


※うろ覚えでしたがこれは「北風のくれたテーブル掛け」というノルウェーの民話だったとわかりました。

たらはかに様のお題に参加しています。

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