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「しゃべる画像」映画編

 夕暮れの町に自転車に乗った老婆が現れた。荷台にはボール紙の束。広場に駐輪すると背負っていたギターを静かに弾き始めた。その音に釣られてぞろぞろと近所の子どもたちが集まってくる。
「さあアメを買っておくれ」
老婆の周りに輪ができる。
「むかしあるところに、」
木枠に嵌めた紙の束の彩色された画像が語り始める。もちろん絵がしゃべっているのはなく語り手の声が当てられているのだが巧みなワザのおかげでまるで紙から台詞が飛び出してくるようだ。一話終わると老婆の自分語りが始まった。
「両親と愛犬は撃たれて亡くなりました。しばらくの間ご厄介になった田舎の農家は都会の市民の悲惨な境遇に比べてノンビリ過ごしていたのです。あたしは埋葬をしなくちゃと考えました。やがて憲兵に連れて行かれたとき雑踏の中からガゾー家で仲良くしてくれた男の子の名が聞こえたのであたしは追いかけました。『シャベール、シャベール!』」荷台にはシャベルと木材も積まれていた。

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