オノマトペピアノ 雨だれ編
雨雲の向こう側で鈍色の光をたたえ存在感を主張する太陽を無視するかのように雨は降りやまず、軒下や木々の梢からは雫がこぼれ続けている。
ただいまと言いかけてドアノブに置いた手を止めた。途切れ途切れに響いてくる声色と声音はあの子のものだ。あの泣き声を聞き間違えるはずがない。断続的に覆いかぶさる低い声音。ぐっしょり濡れたレインコートのままでどれだけのあいだドアのこちら側につっ立っていたことか。ほんの数分? 雨足はどんどん強まり私の心を濃い灰色に塗りつぶしてゆく。まさかあの2人が。信じたくないと心のうちで叫ぶほどに確信はいよいよ強くなるのだった。いったいいつからそんなことに? そもそもあの人が年上の私と一緒になったのにはどんな理由があったというの。
雲が途切れすっと光が差しこむ。
「おかえり」
彼はただ一心にピアノに向かって指を動かしていただけだった。すごい。この人は天才だ。娘の声をあそこまで完璧に再現できていたなんて。
409文字
オノマトペというより効果音というかBGMが某前奏曲😓です。実在の人物と無関係です。
たらはかに様のお題に参加しています。