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なるべく動物園 ①

「この鉄路をまっすぐ行ったところだよ」老人は親切に教えてくれた。
「それにしてもキミは何だってあんなところに行きたいのかね? ひと頃話題になったダークツーリズムとやらかね」
年寄りの言うことはよくわからない。聞き返すのも面倒くさい。でもそれを言ってしまえば、だいぶ前に他界したバアちゃんだって同じことだが。そもそも僕が今『その場所』を目指しているのはバアちゃんの遺言のせいだ。死ぬ間際に
「なるべく、行ってはいけない」と言い残したのだ。「絶対に」ではなく「なるべく」。その言い方で、かえって何やら最後の拠り所に思えてしまった。要するに僕は追い詰められていたのだ。
 現地に到着すると放射状に東西南北から集結した鉄路は束ねられ一つの駅舎に吸い込まれていた。『動物園』には長蛇の列ができていた。最後尾の同胞が冷たく言い放った。
「今頃来ても遅いよ。ここに居ればとりあえずエサにありつけた時代は終わった。オレたちが奴らを絶滅させたのさ」

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たらはかに様のお題に参加しています。

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