ごはん杖 ④
「会ってほしい人がいるんだけど」と切り出す娘にまた? と言いたくなるのを堪え夫の顔色を窺う。不機嫌オーラが見てとれた。
「今度連れておいでよ。一緒にごはん食べよ」
青年はとても感じが良かった。
「美味い! お母さんの手料理最高ですね!」でしょ? うふふ、なんか可愛い。でもうちの子より年下に見えるなぁ。彼が帰ろうとすると豪雨が。既視感に襲われる。私が夫と初めて会った日も雨だった。
「パパの傘、かしてあげていい?」
夫渋々。それきり男は来なかった。振られたの? 大丈夫よ、また次があるから。
「手づくりの杖の持ち手だぞあれは」
あの日、差し出してくれた傘の柄を掴んだ手とアナタの手が触れその温かさにドキっとして握ったおむすびでアナタの心も掴もうとした。ヤダ思い出してしまった。娘も早く幸せをつかんで欲しい。本気でそう思う。
web上で『格安日帰りツアー! 美味しいごはんとお洒落なアンブレラor杖のお土産付き!』を発見するまでは。
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この娘さんはすでに決まった相手がいるようです。
世間にはごはん力の高い女子というのがいて、杖をガッチリ握るという話をきいたことがあります。
たらはかに様のお題に参加しています。
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