世にもゴジラなマンション物語
駅に近いと家賃は高くなるものだが、駅から徒歩3分で水道代込、ユニットバスでワンルーム家賃3万円という物件に、住んでいた事がある。
当時お付き合いしていた人と、とりあえず住める場所として入居したのだった。それが間違いだった。
夜帰宅すると、自分の住んでいる3階まで階段をのぼっていくのだが、男性の声がする。
「ごめんなさ〜い〜ごめんなさい…」
…三階の奥から声がしている。3階通路の1番奥の方に、おじさんが居た。
怖すぎるのでしばらく階段で待機してみると、
「ごめんなさ〜い〜ごめんなさい…ごめんなさ〜い〜ごめんなさい…」
まるでおもちゃの水飲み鳥のように妙な一定のリズムで頭を上げ下げしながら、何もない壁に向かってずっと延々謝り倒している。
疲れて帰ってきて早く家に帰りたい気持ちが勝つまでしばらく時間が必要だったが、意を決して自分の部屋のドア前まで足音建てず、素早く自分の家に入り鍵をかけた。
ホッとしたのもつかの間、自分の部屋に居ても、頼んでもいないごめんなさいメドレーフューチャリングオジサンが聞こえてくる。
やばいマンションに入居してしまったな…。
その時はそのエンドレス謝罪おじさんだけが問題だと思っていた。
ある日部屋の水道管が水漏れを起こし始めた。微量だが、フローリングにまで水がかかるので不動産会社に電話をし、水道管を直しに業者のおじさんがやってきた。
年齢は40代後半くらいか。メガネをかけたベテランそうなおじさんだ。
水道管をみるやいなや、業者のおじさんがタオルと機械を持って水道管に挑んでいた。パイプカッターというのだろうか。円形の刃が回転してキュイイインと音をたて、駄目になった水道管を切るようだ。
業者おじさんは、迷いなく水道管に向かってパイプカッターの刃を向けた。
キュイイイン……
ブッシャアアアアアアーーー!!!!!!!!
水が噴水のごとく、切った水道管から溢れてくる。
業者おじさん「うわあああああ!!!!」
おじさんはパニックになり、真っ黒なゴツいケータイで不動産会社に電話し始めた。
「緊急!!緊急なんだよ!!早く!!水が止まらなくなったんだよ!!!いいから社長ぉぉぉぉ!!!!」どうやら責任者は不在のようで、電話を切っておじさんは私に「タオルありますかッ!?」と聞く。
おじさんの黒いケータイが鳴る。
ジャジャジャン、ジャジャジャン、ジャジャジャジャジャジャジャジャジャン!!
ゴジラ。この着信音はGODZILLAのテーマソングだ。
ゴジラ、ゴジラ、ゴジゴジゴジゴジラ!!ゴジラ、ゴジラ、ゴジラ、ゴジゴジゴジゴジラ!!!
おじさん電話出る「だから早く!!!!いーから!!緊急なんだってば!!!!社長呼んで社長!!!」居ないのか、うまく伝わってないのか、また電話が切れた。
ジャジャジャン!ジャジャジャン!ジャジャジャンジャジャジャンジャジャジャン!!鳴り響くゴジラのテーマソングと共に溢れる水。
おじさんは泣きそうになりながら、何度も続く不毛な不動産会社とのやり取りでゴジラの着信音が鳴り響く中、水道管を一生懸命私のバスタオルで抑え込んでいた。
ジャジャジャン!ジャジャジャン!ジャジャジャジャジャジャジャジャジャン!!
パニック状態のおじさんはもはや正しい状況判断が出来ず、ゴジラケータイで社長を呼び出す事しか出来なくなっていた。
ゴジラとあふれかえる水が、共にハーモニーを奏でてどうにもならない状況がしばらく続く中、ようやく社長が現れた。
「一旦全部の水止めたよ」
その時にはもうすでにマンションの廊下端から端まで水浸しになっていた。
業者のおじさんが、私に聞いてきた。
「トイレ借りて良いですかッ!!」
私が返事したかわからない位のタイミングで私の部屋のトイレにダッシュで直行するおじさん。
しばらくトイレから出てこないので、その間に社長と私で全ての水を拭いたのである。
どうしてだよぉぉぉ!!!!!!!!!!!!
読んでくださり、ありがとうございました😊🍀🍀
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