夜景と女性とシャンディ・ガフと。
世界でいちばんオシャレなお酒は「シャンディ・ガフ」だと思う。
あれは22歳のころ。
ビールと日本酒とチューハイと、カルーア・ミルクをギリギリ覚えたあのころ。
地元の秋田で働いていたが、本社は仙台市にある企業に勤めていた。
東北では、宮城県の仙台市という街がいちばんの都会だ。
その仕事は、年に2回ほど本社出張があった。
本社には、わたしをかわいがってくれる出世頭の先輩がいて、出張するごとに何名かの社員を誘って飲みに連れて行ってくれた。
もちろんそのなかには、見目麗しき女子社員の方々もいらっしゃった。
田舎者からすれば、仙台はそれはもう大都会だ。
大都会の紳士淑女たちと飲むのだ。
これはオシャレなお酒を頼まねばならないと、意気込んだ。
まちがっても「焼酎のコーラ割りってありますかね」なんて言ってはいけない。
精一杯のオシャレとして、ここぞとばかりに1杯目から「カルーアミルク!」と注文をした。
残念ながら、まだまだケツの色がブルートランスパレンシー(限りなく透明に近い青)だったわたし。
それを横目に見目麗しき女性Aが「うふふ、わたしはシャンディ・ガフで」と続いた。
その隣の見目麗しき女性Bは「じゃあわたしはレッド・アイにしようかな」と続いた。
30代の先輩は「オレはギネスで」と、のたまう。
「あは、あはははは」と、無邪気な顔で笑うわたし。
(なん...だと!?シャイニング?...グフ?)
(レッド...アイ?すげえ、必殺技みてえだ...)
(えっと...ギネ...ス?)
と、さっぱり意味が分からなかったことは隠しきった。
そして1杯目からカルーア・ミルクを頼んだわたしに対し、
女性A「しばいぬさんって、甘いお酒好きなんですか?」
先輩「あれ?しばいぬってお酒弱くなかったよねえ??」
と、とうぜんの突っ込みも入ったが、「あはは、あは、そうっすねえ!」と無邪気な子のフリをして乗りこえた。
やがてウェイターさんが運んできた「赤(レッドアイ)・金(シャンディ)・黒(ギネス)」と色とりどりの飲みものたちが、すべてビールだったことを知ったのは地元に戻ってからだった。
当時はスマホでググる、なんてできなかったから、本屋で「カクテル図鑑100選」みたいな雑誌を見つけて、必死で探したっけなあ。
あのとき、シャンディ・ガフを頼んだ女性Aさんは、流行りの「キャミソール」を着ていたんだ。
白くキレイな肩の向こう側には大きな窓があって、そこには仙台の夜景がいっぱいに広がっていた。
照明を落とした暗めの店内に、キラッキラしたシャンディがバコーンと運ばれてきた瞬間、「こここここれがオシャレってやつかああああああ」と感動したね。
それ以来、わたしのなかで「シャンディ・ガフ」は世界一オシャレなお酒になった。
そして、それからしばらくのあいだ、わたしが頼むお酒は、世界でいちばんカッコイイお酒「ギネスで」になったことは言うまでもない。
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