その失敗が、誰かの心をふと温めているかもしれない。
車のラジオから宇多田ヒカルの「Automatic」が流れてきた。
「な♪、なかいめのベ♪、ルで受話器をとおったきみ〜」と、軽快に曲が始まった。しばらく続いた。するとサビで突然、「its Automatic♪ そばにいるだだだだだだけけけけけけけけで〜、そのめにににににににににみつめめめめめめ」と音が乱れた。一瞬、「え!?CDで聞いてたんだっけ!?」とカーオーディオを見るわたし。ちがう。
まるでCDに傷でも入っていたかのように、FM局で流す音源が乱れたのだ。ひゃー、そんなことあるんだなー、と。人生ではじめてかも。
同時に、音量を上げた。また乱れたらおもしろいなあって、しょうもない小さな好奇心。そしたらそれから乱れることはなくて、順調に宇多田ヒカルの歌声は車内に響いていった。
すると、次第にこの曲が流行っていた時代を思いだす。高校を卒業して、社会人に成り立てのころ。あのころは、よく音楽番組を観てはCDを借りて聴いて。イヤな仕事があるときは、朝から音量を上げて聴いたりして、無理やり会社に向かってたなあ。無知で無邪気で、でも人とは違う何者かになりたくて、色んな人と関わりながら、いろいろ背伸びして生きていたなあ、なつかしいなあ・・・って。
これもきっと、ラジオの音源が乱れ、そこで音量を上げて聴いたからこそのこと。そうじゃなければ、ただ聴き流して終わっていただろう。
ふと思った。
もしかしたら、このラジオ番組の放送終了後、ADみたいな部下の人がベテランの上司に「なにやってるんだ!いつも音源は下調べで聴いておけって言ってるだろ!」みたいに怒られてしまうのかもしれない。
でも、そのADさんの失敗があったから、わたしはとてもなつかしい思い出にひたることができた。残業つづきで疲れた心が、ちょっとだけあたたかくなった。
仕事でなにかしら失敗をすると、人に迷惑をかけてしまう。だからこそヘコむ。失敗した人も、迷惑をこうむった人も、当事者たちはたまったもんじゃないよね。失敗なんて、できればしたくない。
でもその失敗が、無関係なだれかの心を救っていることがあるのかもしれない。
喫茶店で新人ウエイトレスさんが、お客様のズボンにコーヒーをこぼしてしまい、店長と一緒に謝っていたとしよう。それを見た無関係のおじさんが、入社したてのころに先輩と一緒に客先へ謝りに行ったことを思い出し、初心に帰って後輩へ良い指導ができるようになることだってある。
当事者にはなんの意味もない話で、なぐさめにもならない話かもしれないけど、そうやって世の中はお互いの失敗を糧としながら支え合っているんだ。みんなで失敗しあって、人類は成長していくのだから、人の失敗も、自分の失敗も、できるだけ許しあって、生きていきたいね。