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9.9死に0.1生を得る。
ふと、薄い毛布にくるまれた身体で思った。
「こうしてあしたの夜も無事にこのふとんで眠れるのだろうか...」
となりで奥さんはスーコスーコと寝息をたてていた。
その翌日、つまり今日。
寝る前にそう思ったことなどすっかり忘れ、いつも通りの仕事をこなして帰路についた。
立ち寄ったローソンの駐車場から、大通りに車を出そうとした瞬間。
すでに車体はゆっくり動き出しているというのに、急に目の前に自転車が飛び出してきた!
その0.1秒前、わたしはブレーキを踏んでいた。
急ブレーキに車体はガクッ、と揺れる。
「まじか...!」
当たったと思った。
これは事故になる、一瞬でそう覚悟を決めた。
刹那、自転車はハンドルをぐりん、と操作し、まるでフロントバンパーをなぞるかのようにギリギリを通りすぎた。
そして走り去っていった。
乗っていたのは、半袖のワイシャツにスラックスを履いた50代くらいのおじさん。
もう一度、
「まじか...」
と、停まった車内でつぶやく。
もしこの0.1秒前にブレーキを踏んでいなければ、100%、自転車を撥ねていた。
当たり所が悪ければ、おじさんはアスファルトにたたきつけられ、頭蓋骨を骨折していたかもしれない。
そうなれば、わたしはその場で救急車を呼ぶだろう。
そして救急車に同乗する。
そして病院に付き、それから奥さんに電話をし、
「人を撥ねてしまった...」
と報告をする。
奥さんは電話越しに青ざめて、きっと病院に駆けつける。
やがて被害者のご家族が病院に到着する。
ご家族はわたしをにらみつけるかもしれない。
あくまでも飛び出してきたのはおじさんなのに、この状況では謝罪せざるを得ないだろう。
「申し訳ありません...」
「なんてことしてくれたんですか!!」
と、ご家族はわたしを責める。
「(飛び出したのはそっちなのに...!)」
と思っても、とてもじゃないが言えない。
もしかしたら、おじさんはそのまま植物状態になってしまったかもしれない。重度の後遺症が残ってしまったかもしれない。
そうなったとしたら、背負う十字架の大きさはとてつもなく大きいだろう。
ローソンでパンを買ったあのときのわたしにはもう戻れない。
いまこうしてnoteも書けていない。
人ひとりの大切な人生を変えてしまった、加害者なのだから。
たった0.1秒だ。
その0.1秒で、わたしの人生と、おじさんの人生は地獄の道行きに変わっていた。
お互い無事で本当に良かった...。
そして、人生なんて0.1秒の選択で天国にも地獄にも変わるということを改めて思い知らされた。
だから1日1日を大切に生きよう、なんて言うつもりもない。
それはどこか運命に諦観しているような気もするからだ。
常に油断せずに生きようと思った。
事故もコロナも「おれは大丈夫!」なんて、調子に乗って生きないようにしようと思った。
あの刹那、0.1秒早くブレーキをかけられたのは、アクセルを踏んだ瞬間、ほんの少しだけ視界の端に違和感を感じたからだ。
「(あれ?車の横になにかいる...?)」
と、本当にほんの一瞬だけ違和感を感じた。
そこで念のため、アクセルから足を話した次の瞬間、自転車が飛び込んできたので、すぐにブレーキをかけられた。
そこで油断して、安全を過信して「ま、いっか」とアクセルを踏みこまなくて本当に本当に良かったと、えらいぞと、自分をほめてあげたい。
紙一重だった。
おかげさまで、きょうも無事に床につける。
スーコスーコ寝息をたてて寝る奥さんの横で眠れる。
あたり前のように繰り返されているこの日々は、じつはとても貴重なものなんだよね。
自信と過信はちがうよね。
決して自分を過信せず、1日1日油断しないで、生きていきたい。
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