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演劇を利益化する一般的方法【食いつぶされないための自衛学】

 どうもしばいいぬです。今回は演劇を利益化する一般的方法と題しまして、演劇で、ビジネスとして利益を上げる方法を19通り紹介します。

 ここで紹介する方法は、長期的に演劇全体に役に立つものから、目先の利益にのみ固執した、演劇市場全体を先細りさせる投機的なやり方まで千差万別です。この記事の読者にとっての利益は2つです。
・プロデューサーにとって、演劇を最低限利益化するための指針となること
・演劇で食い物にされないために、投機的なプレーヤーに対抗する知識を身に着けてもらうこと

 しばいいぬとしては、演劇は基本的にはビジネスにはならないという話を書いてきましたが、それでもこの業界をビジネスとして成立させたいと試みるプレーヤーはまあまあいらっしゃいます。彼らの全員が演劇市場のパイの拡大といった、長期的目線を持っているのが理想ではありますが、残念ながら〈演劇を食い物にして生き延びる投機的なプレーヤー〉が夢見る俳優志望を食い物にしているのも事実です。ここに書く彼らなりのやり方を知ることで、彼らの手にかからないような自衛をしていくのも肝心です。

〇はじめに:投機的なプレーヤーの考え

 投機的なプレーヤーの見立てによれば、俳優や劇団市場は供給が需要に対して過剰になっているから、どんな安値でも契約できると考えています。彼らがターゲットにする”承認欲求を満たしたい若者”の数は変わることはなく、そういった層が手早くそういった欲求を得るために舞台俳優志望として流入し続ける限りこのビジネスモデルは成立していると考えています。

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 しかしながら、Youtuberの台頭やSNSの発達などから、上のような演劇に対して特段情熱のない層は、その主戦場をもっと手軽に、より大きなインパクトを持てるYoutubeなどの媒体へと急速に移動していることを彼らは見落としています。

 このような状況にあって問題になるのは、やはり幾度となく語られるように演劇市場のパイをどれだけ増やすことができるか、でしょう。これは、演劇に携わるすべての人が貢献しなければならない課題であり、このためにも投機的なプレーヤーが行う公演にかかずらっている場合ではありません。

①支出を下げるか利益を上げるか

 演劇に限らずあらゆるビジネスを収益化させていくためには、大きく分けて支出を下げるか、利益を拡大するかしかありません。この二つの指針は、更にいくつかの分類に分かれていきます。ひとつずつ見ていきましょう。

 支出ですが、これは実はランニングコストイニシャルコストという二つの種類に分けることができます。ランニングコストとは、商品を作り続けるためにかかる材料費や人件費などのコストのことであり、一方でイニシャルコストとは、商品を作るための設備投資にかかるコストなどを指します。これらの違いを理解するために、例題を考えてみましょう。

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 A君はリンゴジュース屋さんだとします。リンゴは一個50円で仕入れ、またジュースを作るためのミキサーも3000円で買いました。300円のジュースを一杯作るためにはリンゴは2個必要です。
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 上の例題で、イニシャルコストというのはミキサーを買った値段3000円で、ジュース一杯を作るためにかかるランニングコストはリンゴ2個を買う100円です。ここから支出を下げるには、安い林檎を買うか、安いミキサーにしておくかという考えになるでしょう。
 つまり演劇においても支出を下げるということは以下の二つの考えを別々に持つ必要があります。

①イニシャルコストを下げるか
②ランニングコストを下げるか


 収入ですが、演劇公演の収入のほとんどはチケット代です。つまり総売上というのは公演予算の考え方⓪で見てきたように、以下の計算式で計算できます。

総売上 = チケット単価 × 座席数 × ステージ数

 つまり、売上を上げるには③チケット単価を上げるか、④座席数を増やすか、⑤ステージ数を増やすしかないということが明らかです。
       (   ↓ まだ見てない人はぜひぜひ  ↓  )

あるいは、チケット以外の収入を考えましょう。つまり下のようになります

⑥物販など、チケット以外の売上を伸ばす
⑦クラウドファンディング、あるいは助成金や協賛企業から支援を受ける
⑧演劇とは別業種の仕事を持ち、赤字を補填する

以上、8項目を中心に見ていきます。


A. 支出を下げる篇

 支出を考えるのは比較的簡単です。支出を下げる方法は、短期的利点・長期的利点・演出的利点・社会的利点の4つの評価軸で考えていきましょう。

A-1. イニシャルコストを下げる

A-1-1. 人とデザイン(舞台美術、照明デザイン等)に対する報酬を値切る

短期的利点: ★★★★★
 (目に見えない料金を下げるので短期的にはもっとも効果的)
長期的利点: ☆☆☆☆☆
(劇団全体の信用が下がるため、次公演以降の質が低下する)
演出的利点: ☆☆☆☆☆
(演出としてはデザインの質の低下を担保しなければならない)
社会的利点: ☆☆☆☆☆
(演劇市場全体を弱らせることになる)

 支出を下げるために、もっとも単純なやり方がデザインに対する報酬を値切ることです。↓の記事で書いたように、目に見えない報酬は悪辣なプロデューサーによってよく削られるものになっています

A-1-2. 再演を可能にしデザイン(舞台美術、照明デザイン等)を使いまわす

短期的利点: ☆☆☆☆☆
 (初演時のデザイン料を削ることはないので、短期的利点はない)
長期的利点: ★★★★☆
(再演時には同じデザインを使うため2回目以降のデザイン料を下げられる。しかし、その舞台美術などの保管料などのコストがかかる)
演出的利点: ★★★★☆
(劇団としてレパートリー演目を持つことができるので、劇団の売りになるほか、新人俳優の教育にもつながる)
社会的利点: ★★★★☆
(「あの劇団といえばあの作品」となるため、作品があらわれては消えてゆく演劇市場において、その演出が古くなろうと一定の指針となる)

 再演に耐えられるようなデザインとすることによって、初演時の時に発生するイニシャルコストを2回目以降に回収しようという考えに基づく、いわゆるレパートリー戦略というものです。しかし舞台美術の保管コストなどがあり、実際にレパートリーを持っている劇団はごく少数です。

A-1-3. モノの購入をなるべくせずに、簡素化したものにする

短期的利点: ★★★★☆
 (モノをあまり買わないため、節約になる)
長期的利点: ★★☆☆☆
(今後必要なモノが生じたときには新たに買う必要がある)
演出的利点: ★★★☆☆
(演出家によって、演出スタイルが異なるために相性がある)
社会的利点: ★★☆☆☆
(傾向として舞台美術などの簡素化が進んだ場合、舞台美術やカツラの作り方等の演劇に付随の専門技術が先細りになりうる)

 

A-1-4. 一度買ったものを何度も使いまわす

短期的利点: ☆☆☆☆☆
 (再利用可能なしっかりとしたモノを買うので、短期的には赤字)
長期的利点: ★★★★☆
(高価な大道具などを使いまわすので、2回目以降の公演の節約になる。
しかし保管料などのコストがかかる)
演出的利点: ★★★★☆
(新作の演出を付けるときに、劇団の物品を使って試行錯誤ができる。
但し、同じ道具を使い続けると作品が似たり寄ったりになりうる)
社会的利点: ★★☆☆☆
(社会とは関係が薄い。)

A-2. ランニングコストを下げる

A-2-1. 人件費を値切る

短期的利点: ★★★★☆
(目に見えない料金を下げるので短期的には効果的だが、限度がある)
長期的利点: ☆☆☆☆☆
(劇団全体の信用が下がるため、次公演以降の質が低下する)
演出的利点: ☆☆☆☆☆
(演出としてはモチベーションの質の低下を覚悟しなければならない)
社会的利点: ☆☆☆☆☆
(演劇市場全体を弱らせることになる)

A-2-2. 若手の俳優など、安い人材を使う

短期的利点: ★★★★★
(ノルマを課すため、確実に利益が出るようにできる)
長期的利点: ★★★★☆
(質を考えなければ、新たなカモが現れる限り再生産可能)
演出的利点: ☆☆☆☆☆
(質は考えてはならない)
社会的利点: ☆☆☆☆☆
(演劇市場全体を弱らせ、演劇嫌いを増やすことになる)

A-2-3. 照明オペレーションなどを自動化、或いは演出の中に組み込む

短期的利点: ★★☆☆☆
(節約になるが、演出として固まるまでは質が低下する)
長期的利点: ★★★★☆
(演出として固まれば、安価に作品を作ることができる)
演出的利点: ★★★★★
(相性にはよるが、あらたな演劇上演を目指すことができる)
社会的利点: ★★★★☆
(演劇市場全体としても節約になる)

A-2-4. 演出家自身がオペレーションをおこなう

短期的利点: ★★★☆☆
(一人分ではあるが確実に節約になる)
長期的利点: ★★☆☆☆
(長期的な目線とは関係が薄い)
演出的利点: ★★★☆☆
(自分次第だが、オペレーションのクオリティが下がる可能性がある
しかし照明等の専門用語を学べ、スタッフとの意思疎通がスムーズになる)
社会的利点: ★★☆☆☆
(社会的な目線とは関係が薄い)

A.3 すべてを外注する=劇団を集めた企画公演

短期的利点: ★★★★☆
(リスクを劇団に背負わせることができるので、胴元は儲かる)
長期的利点: ★★★★☆
(シリーズ化することで企画へのファンがつく
また、日の浅い劇団が現れ続ける限り再生産可能)
演出的利点: ★★★☆☆
(劇団に対して競争を煽ることで質も期待できる)
社会的利点: ☆☆☆☆☆~★★★★☆
(良い点:演劇企画のリスクを分散させ、見本市として劇団を並べることができ、彼らの作品をより多くの人々に見てもらい、売れる可能性がある
悪い点:演劇を生産する創造力の源であるはずの劇団への負担を増やし、劇団につくファンを企画が攫っていくため、演劇市場の寿命は短くなる)

 最近の東京の公演で存在感を増しているのがこの形態です。一つのコンセプトや舞台装置を共有して作品を多数の劇団に作ってもらい、それを1公演あたり2-4団体ほどで出演させる、見本市のような形式です。
 利益だけ考えればこの形式がリスクもなく、品質も良く、ニーズに適した公演であることは確かです。しかしながら演劇市場全体のことを考えると、こういった見本市はあくまで足掛かりであり、これに出品した劇団が売れるまでをプロデューサーが支援してはじめて演劇市場の拡大に貢献するのであって、そういった支援がない公演の場合、それはプロデュース団体の小銭稼ぎにしかなっていません。
 プロデューサーとしてこういった企画を行う場合は、それに参加してくれる劇団にたいしてちゃんとした利益(次公演の宣伝であるとか、コネクション作りとか)が帰るような形にしてあげる必要があります。

 この形式については後程詳細な記事にしたいと思います。

B. 利益を上げる篇

 利益の上げ方は、支出を下げるのに比べて非常に難しく、個々のケースごとに考えていく必要があります。ですので評価軸はここでは、難易度、期待値、社会的効果の3軸で考えていきます。難易度は星が多いほど簡単、ということです。

B-1. 座席数の多い劇場で公演をおこなう

 難易度 : ★★★★☆
(座席数の多い劇場を抑えるだけなので、簡単ではある)
 期待値 : ★☆☆☆☆
(座席数の多い劇場を埋めるだけの観客がいなければ埋まらない)
社会的利点: ★★☆☆☆
(埋められるのであれば効果があるが、埋められないなら難しい)

B-2. ステージ数を増やす

難易度 : ★☆☆☆☆
(劇場のスケジュールが決まっているため日本では難しい)
 期待値 : ★★★★☆
(しっかりとした感想や批評を喚起できれば、終盤の客入れが期待できる)
社会的利点: ★★★☆☆
(感想や批評を喚起することができれば、社会的波及効果を期待できる)

B-3. 客単価を上げる

B-3-1. 需要のある公演をおこなう(マーケット・イン)

難易度 : ★★☆☆☆
(どういった需要があるのかを調査することと、
演出家との作品のすりあわせが難しい)
 期待値 : ☆☆☆☆☆ ~ ★★★★☆
(需要に適う作品ができれば効果があるが、やってみないと分からない)
社会的利点: ☆☆☆☆☆ ~ ★★★★☆
(2.5次元演劇のように、市場を拡大できる可能性もあるが、
やってみないとわからない)

B-3-2. 需要を作りだす公演をおこなう(プロダクト・アウト)

難易度 : ☆☆☆☆☆
(作品から世界の問い直しをおこなうのは非常に難しい)
 期待値 : ★★☆☆☆
(歴史的にみれば、革命的な作品であればあるほど上演の興行成績は悪い
ex.チェーホフ「かもめ」の初演など)
社会的利点: ★★★★☆
(革命的な作品が作ることができれば社会的には良い)

B-3-3. チケット代をただ上げる

難易度 : ★★★★★
(ただ上げるだけなので簡単にできる)
 期待値 : ★★★★☆
(1回はお客さんはついてきてくれるが、
2回目以降見に来てくれるかは作品クオリティ次第)
社会的利点: ★☆☆☆☆
(演劇を見るコストが上がっていくと、演劇からその他エンタメ業界へ観客層が移動してしまう)

B-3-4. 付加価値を説明する

難易度 : ★★☆☆☆
(付加価値を具体的に、わかりやすく宣伝することがやや難しい)
 期待値 : ★★★★☆
(付加価値がなにかによるが、効果的ではある)
社会的利点: ★☆☆☆☆ ~ ★★★★☆
(しっかりとした説明が必要 ← プロデューサーの腕次第!)

B-3-5. 物販関連の売上を伸ばす

難易度 : ★★★★☆
(利益の上がる商品を取りそろえたり、
劇団特有の売りのものを作るのはそこまで大変ではない)
 期待値 : ★★☆☆☆
(しっかりとした展示形式や商品展開である程度の利益は期待できる。
物品の管理などはやや難しい)
社会的利点: ★★★★☆
(劇団のファンに対して、ちゃんと推し活動ができるような基盤を作れる)

B-4. 助成や支援を募る

B-4-1. 助成金に募集する

難易度 : ★☆☆☆☆
(やや専門業務なので、経験者からの知恵が必要)
 期待値 : ★★★☆☆
(始めたての劇団ではなく、ある程度基礎を築いた劇団なら採択率は高い)
社会的利点: ★☆☆☆☆ ~ ★★★★☆
(助成金を頂くときにあらためて考える社会的意義を実現できる。
但し、言い訳だけの社会的意義は逆効果)

B-4-2. クラウドファンディングを募る

難易度 : ★★★★☆
(クラウドファンディングを募るだけなら簡単。
アドバイスが貰えるのでReadyforがおすすめ)
 期待値 : ★★☆☆☆
(クラウドファンディングで応援してくれる人のほとんどが知り合い。知り合いがもともと多いかどうかがポイントになる)
社会的利点: ★★★★☆
(演劇といった、作品の製作段階の情報を客に伝えることができないメディアにとって、クラウドファンディングは金のかからない宣伝として効果的)

B-4-3. 社会的意義などを基に企業協賛を募る

難易度 : ★☆☆☆☆
(専門業務なので、経験者からの知恵や、営業マンとしての技量が必要)
 期待値 : ★★★★☆
(コネクションなどがあれば期待できる)
社会的利点: ★★★☆☆
(協賛企業としても、スケールする芸術への支援は宣伝効果が期待できる)

B-5. 公演外の利益を上げる

B-5-1. 映像などの販売

難易度 : ★☆☆☆☆
(しっかりと撮影編集に対してお金を支払えば、売れるDVDにはできる。)
 期待値 : ★★★★☆
(宣伝にもなるし、劇団資料としても重要)
社会的利点: ★★★★☆
(演劇を、どんな形であれ後世に残すのは大事)

B-5-2. ファン活動をしっかり行う

難易度 : ★★☆☆☆
(劇団ごとのカラーに合わせた推し活動ができる仕組みづくりがやや大変)
 期待値 : ★★★★☆
(あんしんして劇団や俳優を推せる形をしっかりと劇団側がつくってはじめて、人は安心して推し活動ができる)
社会的利点: ★★☆☆☆
(劇団を推してくれるファンを獲得し、
彼らと一緒に劇団を発展させてゆくことが唯一の成功の道)

B-5-3. 演劇とは関係ない業種をおこなう(バイトや、Youtuberなど)

難易度 : ★★★★☆
(都市の場合、お金を稼ぐ副業とのバランスをとるのは非常に難しい)
 期待値 : ☆☆☆☆☆ ~ ★★★★☆
(バランスが崩れてしまって、演劇をやめる人は非常に多い。
しかし、安定した基盤を築ければそこからの新規客も期待できる)
社会的利点: ★★☆☆☆
(社会的なものとはあまり関係がない)

おわり

 記事としては以上になりますが、この記事で考えた19戦略の関係性を図化したものを添付しておきました!
 支援していただける方向けのささやかなお礼でございます。

したっけ。


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