⚠︎ネタバレ注意⚠︎クトゥルフ神話TRPG「紙魚のうた」プレイ後メモ
⚠︎注意
この記事は、クトゥルフ神話TRPG「紙魚のうた」の秘匿ネタバレを含みます。
閲覧には充分ご注意ください。
シナリオ
「紙魚のうた」CoC6版非公式シナリオ - 擬似吉旦 - BOOTH
このメモは、「紙魚のうた」内でのわたしのロールプレイがKPとPL1に「あまりに倫理観がない」と言われたので釈明のためにHO2の心情を吐露する形で記録したものです。
なお、わたし自身も若干ちょっと倫理観なかったかな…と反省しております。受け止めてくれたKPのしちゅーさんとHO1のせるさんありがとうございます。愛してます♡
HO1:檻 遠人(おり・えんと) PL:せるさん
推理小説作家。詳細はせるさんのnoteをご覧ください。
HO2:米塚 炊(よねづか・たく) PL:ごはん
出版会社に勤める編集者。HO1を担当している。学歴コンプレックスと才能コンプレックスをこじらせている。
才能があれば、と運命を呪ったことがある。
理解者がいれば、と目を逸らしたことがある。
環境が悪かったのだ、と自分を慰めたことがある。
もっと努力していれば、と自分を恨んだことがある。
過去を悔やんだことが──たくさんある。
僕は過去ばかりを見ていて、それでいて過去に縋り続けている。
幼い頃に褒められた作文。一次審査も通らなかった原稿。徹夜で叩き続けたキーボード。段ボールのなかの同人誌。すべて捨ててしまおうと何度も思い、それなのに何ひとつ捨てることができなかった。中途半端な人間だ。見ないように、希望を抱かないように、自分に言い聞かせながら大人になった。作家の道を諦めてなお、僕は競争率の高い出版業界に入り、希望通り文芸担当部署に配属された。
僕にはちゃんと運も実力もあったのだ。身の丈に合った願いならば、ちゃんと叶えられたのだ。小説家なんていう、弁えない夢を見なければ現実は応えてくれる。ああ、就職も仕事も上手くいかなければ、僕は今度こそすべてを捨てられたろうに。
僕の願いは叶い、僕の希望も叶い、僕の夢は叶わなかった。
毎週のように届くたくさんの応募作を下読みしては「こいつらなんて」と思い、まだ若い作家の新作に叩きのめされ、筆勢の衰えた大御所作家におべっかを使う。
僕はこいつらよりマシだと自分を慰め、僕はこの人たちには絶対に敵わないと自分を傷つける。そんな毎日を、普通に生きている。
若い頃はあんなに嫌だった「ふつう」の人生を「ふつう」に生きるのが僕は上手かった。
先生の目から紙魚がこぼれたとき、ああ、なんてきれいなんだろうと思った。
美しさに見蕩れて手を伸ばすと、それは簡単に掴めた。
簡単に掴めて良いわけがない。それは、僕なんかが得られるものじゃない。そう思いながらも、僕は紙魚を飲みこんだ。先生の才能を、呑みこんだ。
僕の臓腑に沁み渡る先生の才能を、僕はたいせつに喰べた。
なんという美味。なんという幸福。なんという悦楽。もっと、もっと、もっと喰べたい。手に入れたい。取り込みたい。そのときの僕は狂気に満ちていた。
正気に戻って気づくのだ。あの一尾で僕を狂わせた先生の才能。記憶。技巧。感情。努力。あれ一尾だけではないはずだ。先生からはもっと紙魚が抜け出している。僕が一口で狂うほどのGiftを先生は持っているのだ。
僕は足元にも及ばない。
僕はあの一匹の紙魚にも満たない。
僕は、僕は、僕は、──なんて「ふつう」なのだろう。
僕は、生まれて初めてちゃんと諦めがついた。
なんだかんだと言い訳をして「もしかしたら」をずっと考えていた。なんて愚かだったのだろう、こんなにも歴然なのに。
ふしぎなことに涙はでなかった。
床に転がる椎塚を見下ろす僕の心は落ち着いていた。
カプサイシンスプレーで目を真っ赤にし、自分のシャツで出鱈目に縛られた彼は、信じられないような目で僕を見上げている。
そんな彼によく見えるように、僕は青く光る紙魚をゆっくりと持ち上げて呑みこんだ。唇でやさしく食み、舌の上で踊らせて、つぷりと歯を立てて、一滴も零れ落ちないようにと嚥下する。僕のなかに広がる花巻先生の才能。過去。情熱。恋心。それらをたいせつに、たいせつに、椎塚に見せつけながら丁寧に喰い尽くした。
椎塚。お前の気持ちはよく分かるよ。これが正しい意味の同情だ。お前は思い知るべきだ。天賦の才能というのは兎角残酷で、僕らには扱えるようなものではないのだから。
お前のために、君の愛しい人のすべてを喰らおう。これはお前への、高望みをした僕らへの罰なのだ。
椎塚にできることは書くことだけだ、と僕は言った。それが小説家としてできる贖罪なのだと。僕の言葉は現実となるだろう。なんの下駄も履かされない状態の彼の物語は、決して世間に認められない。目に入らない。記憶に残らない。読まれもしない。周囲に見放されてもなお、輝いた一時を忘れられずに、ずるずるとしがみつく。いつか、いつか、いつか、また。愚か者は何度だって希望を夢見る。夢見て、たたき起こされて、現実を知る。そうやって何度も冷めて、覚めて、醒めて、そうやって――ようやく自分の才能のなさにもう一度直面して、花巻先生という才能を殺してしまった自分の愚かさを呪うことこそが、彼の贖罪になる。
僕の中に同化した花巻先生は、赦してくれと懇願する。
──彼は弱かっただけなの。
(弱ければ奪っていいのか?)
──愛しているの。
(彼が愛していたのは才能だけだ)
──だれも悪くない。
(では、なぜ貴女は死んだのだ?)
しくしくと胸が痛む。この想いを文字にしたいと左脳が疼く。物語れと魂が叫ぶ。
花巻先生の紙魚たくさん呑み込んで分かったことは、作家とは書かずにはいられない生きものだということだ。書くことが人生なのだ。彼らはそういう生きものなのだ。
申し訳ありません、と僕は謝る。
僕に同化した花巻先生へ。紙魚を一尾食べてしまった檻先生へ。あなたたちから奪ったものを、僕は一生飼い殺します。この才能を、情熱を、言葉を、想いを、少しも漏らさず墓場まで持って行きます。あなたたちが紡ぐはずだった物語を、こんな凡人の僕が横取りして良いはずがないのだから。
この身から弾け出そうな言葉の濁流を押し殺しながら生きていく。生まれ落ちたばかりのアイディアを無視して蓋して生きていく。気を抜けば頭のなかで勝手に組み立てられる物語たちを捻り潰して生きていく。
さよなら、ふつうの僕。
はじめまして、ふつうの僕。
僕はきっと、明日からも、笑って、ふつうに、生きていくことでしょう。
【倫理観がないと言われたポイント】
※指摘されたなって覚えている箇所のみを書き出しているので、ほかにもあったらすみません。
HO1から出た紙魚を秒で掴んで食べた。[※食べたらどうなるか知りたかったし何も起こらなくてもそれはそれで"何もない"という情報になるから]
椎塚に住所を教えられたあと、「夜中の内に燃やしましょうか」と提案した。[※近所迷惑なのでやめたのは偉いと思います]
まだ友好的な椎塚に問答無用でカプサイシンスプレー(熊よけスプレー)を噴射してHPマイナスになるまでタコ殴りにした。
苦しむ椎塚を縛り上げ、目の前で恋人の花巻先生の紙魚をひとつひとつゆっくりと食べ、花巻先生がどれだけお前を愛していたかを滔々と語り、罪悪感を刻み付けた。[※当然だと思う]
そのうえで椎塚に「お前は書くことしかできない」「生きろ」と言った。
こうして箇条書きにすると、「やっぱり割とまともでは?」と思います。
改めまして、一緒に遊んでくれたKPのしちゅーさん、HO1のせるさん、ありがとうございました。LOVE♡