黒柴的パンセ #60

黒柴がこう思う#03

ここでは、過去の体験とは別に、黒柴が何を考えているかを述べていく。

SES企業ってどうなの?(その3)

前回は、SES企業で働くことのデメリットについて、述べてきた。
最大のデメリットは、SES企業で働くエンジニアの給与が頭打ちになるということである。

ソフトウェア企業のビジネスとは

企業のビジネスとは、企業が生産した製品やサービスを市場に提供し、その製品、サービスに対して購入者が価値を評価して対価を支払うことで売り上げが発生する。その売り上げと製品、サービスの提供に発生した原価の差分が利益となり、企業の関係者に分配されていくというものになる。

ソフトウェア企業としては、企業自身が提供するサービスや、パッケージソフト、ある顧客専用にカスタマイズされたシステムに対して、利用者が対価を支払うことで企業活動が成り立つ。ただし、これはシステムインテグレーター(SIer)のようにソフトウェア企業以外の一般企業、一般消費者向けに製品、サービスを提供するソフトウェア企業におけるビジネスであり、SIerにぶら下がるSES企業は別のビジネスモデルを持つと考える。

SES企業のビジネスモデル

SES企業の場合、その大半はSIerや電機メーカなどに自身が抱える社員を作業者として送り込み、その作業者の稼働時間でSIer、電機メーカから対価を得ることになる。
そのため、年間売上は「SIer、電機メーカの契約単価」×「月間の平均稼働時間」×「12(ヶ月)」×「投入している社員数」でおおよそ予測が立ってしまう。
年間売上金額について、上記の計算式でほぼ上限が見えているため、より利益を出そうとした場合、原価を抑えることが考えられる。原価として考えられるものには、以下のようなものがある。

  • 材料費:製品を製造するために使用される材料に関する費用

  • 労務費:製造過程で働く人に支払われる人件費

  • 経費:製造活動に関連するその他の費用

  • 製造間接費:直接費に該当しない製造に関連する全ての間接費用

SES企業の場合、原価のほぼほとんどが労務費、すなわち社員に支払う給与となる。そのため、売上の総額が予想できるのであれば、社員の給与合計が売上総額の一定の割合に収まるように、コントロールしていかなければならない。

給与に関しては、バブル崩壊以降、ベースアップという考え方はほぼなくなり、個人のスキルアップや売り上げに対する貢献により、昇給するという制度になっている。
社員のモチベーションを維持していくためにも、ある程度のタイミングで昇給していくことは重要だが、原価の上限がある程度決まっているだけに、その中でいろいろと調整していく必要がある。
ちなみに、「SIer、電機メーカの契約単価」はなかなか上がらないし、ここにも上限がある。

過去に何度か「社員の給与は、その社員の個人売上の1/2としておくと健全な経営が維持される」と述べているが、勤続年数が長く、また高スキルな社員については、その社員の個人売上の1/2を超えて給与を設定せざるを得ない状況も発生する。
そのため、個人売上の1/2以下の社員(主に勤続年数が短い若手)が生み出す利益から、勤続年数が長い社員の給与の一部を補填していき、会社全体の給与総額が会社全体の年間総売上の1/2となるようにコントロールすることになる。

このモデルを見て感の良い方ならわかると思うが、利益率の高い若手が利益率の低いベテランを支える年金に似た構成になっている。
そのため、支える側の若手社員がある程度確保できないと、勤続年数が長い社員を支えることができなくなる。
パンセ#54で述べたように、最初に勤めたSES企業は、まだ20世紀のころだったため、20代の就労人口も多く「未経験者歓迎」ということで、毎年150~200名くらいの採用を行っていた。
しかし、少子化時代を迎えて就労人口がどんどん減っている現代では、新卒の採用を行うことがとても難しくなっている。

ある程度の退職者は発生するため、会社全体の売り上げを確保するためには、一定の社員数は確保しておきたい。しかし、未経験者の若手ではなく経験者を採用しようとすると、最初からある程度の給与を提示しなければならず、そのため利益率は下がる。
自社はずっと中途採用を行ってこなかったが、理由の一つが経験者を採用しても利益を出すスキームが考えられなかったからと考える。

こんな感じで、最近の少子化による若年層の就業人口の減少は、従来のSES企業のビジネスモデルを考え直す時期に来ていることを示していると思う。







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