黒柴的パンセ #55

黒柴が経験した中小ソフトハウスでの出来事 #40

ここでは、中小ソフトハウスで勤務していく中で、起こったこと、その時何を考え、また今は何を考えているかを述べていく。

そんなことは、約束できないよ
これは、黒柴の最初に所属していた中小ソフトハウスのセクションマネージャの発言である。

発言が出たのは、自分が所属するセクションのマネージャ、およびグループマネージャが出席しているセクション運営の定例ミーティングだった。
そのときセクションマネージャが、次のような発言をした。

「A社の担当者から、A社で常駐作業している自社の作業者が、結構な頻度で退職を理由に契約終了となり入れ替わりが激しい。せっかく、仕事に慣れた作業者を一から育てることになり、A社側も作業の効率が悪いため、もう少し継続して作業できるように、作業者に言い含めて欲しいと言われた。」

このA社というのは、大手のSIerだがシステム構築専業という訳ではなく、独自の研究部門も抱えており、そこではITに関する先端技術の実装検証なども行われていた。今回、申し入れがあった担当者というのも、その実装検証を行っている部門のマネージャであり、せっかく先端技術の内容を理解し、作業に慣れてきた作業者が、かなりの頻度で入れ替わるので何とかして欲しいというお願いというか、「お前の会社、もっとしっかりしろよ」というある種の嫌味だったのだと思う。

セクションマネージャは、各グループのマネージャにA社からの担当の申し入れをそのまま伝え、「そういう話なので、今A社に常駐している作業者に指導しろ」と言ってきた。
黒柴を含めてグループのマネージャは困惑していたが、あるマネージャが以下のように回答した。
「A社の研究部門は、先端技術の実装検証という通常のシステム開発とは毛色の異なる作業を行っています。作業者としても、新しい技術の触れることができるのは良いのですが、あまりに先端過ぎてそれが今後のトレンドとなるのか、まったく分からない。
そのため、他社のシステム開発に従事いしている同期の作業者と取得スキル面で大きな差が出てきます。例えば5年経過した後に契約先が変わった場合に、トレンドの技術スキルを習得できていないとエンジニアとしての市場価値が大きく下がってしまうこととに不安を感じていると思います。
なので、ある程度期限を区切り、その期限後にA社で習得したスキルを元に自社でそのスキルを活用した作業をしてもらうことを約束できれば、不安も少なくなると思います。」
それを聞いたセクションマネージャの言葉が、冒頭の「そんなことは、約束できないよ」だった。

セクションマネージャの言いたいこともわかる。
A社の先端技術は、当時としてもあまりに先端過ぎた。2024年現在で言えば、量子コンピュータ向けのフレームワークに関する実装検証をするようなものだ。
当然、5年後だってそのような技術がトレンドどころか、製品としてリリースされているのかだって、誰にも予想できない。そのため、そのスキルを活用してなど約束できるわけもないのだ。

でも、この話の本質は違う。
セクションマネージャというか、会社全体に3年先、5年先という短期中期のビジョンは無いのだ。
仮にあったとしても、「社員数を増やしてSESとしての常駐先を増やし、それにより売り上げを上げ、かつ新卒、第二新卒あたりを大量採用して原価を圧縮し、利益を上げる」というビジネスモデルを進めていくだけなのである。
だから、ある程度期間を区切ってというが、次年度だって何か新しいことに着手するという計画は皆無なのだ。

多くのSES企業のダメな部分はここにある。
会社としての成長戦略を全く描けていない。
そのため、社員の大半は使い捨て、もしくは飼い殺しになる。
黒柴は、30年以上この業界で働いているが、それなりに給与ももらえるし、自分の興味のあることだから前向きに仕事に取り組めている。
ただ、SES企業には長居をするべきではないと思う。
長くなったので、この愚痴は次回へ続きます。

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