黒柴的パンセ #54

黒柴が経験した中小ソフトハウスでの出来事 #39

ここでは、中小ソフトハウスで勤務していく中で、起こったこと、その時何を考え、また今は何を考えているかを述べていく。

新人の方が利益がでるのだから、優先的に新人をアサインしろ
これは、黒柴の最初に所属していた中小ソフトハウスのエグゼクティブに言われたことである。

この発言は、グループのマネージャを集めて懇親会をやっている中でのことだった。
当時、管理職に対する研修などは行われず、なんとなく人の上に立つことができそうなエンジニアをグループのマネージャに昇進させていた。そのような状況のため、管理職研修の代わりという感じで「グループのマネージャは、どうあるべきか?」のような講話を、月一回のペースでセクションマネージャやその他のエグゼクティブが開催し、それが終わった後に懇親会という形で飲み会が開かれるのが常だった。

このころ、多少景気が上向いてきたことあり、会社は事業の拡大傾向にあった。拡大傾向と言っても、本質的にはエンジニアをSIer、メーカーに常駐作業として派遣する、いわゆるSES企業だったため、派遣するためのエンジニアを確保するために、新卒、中途(第二新卒ような感じで、エンジニア経験者ではない)の採用数を拡大していた。

新卒、および第二新卒がどんどん増えていく状況になっていたが、彼らはなかなか仕事にアサインされず、新卒の未オーダー数はかなりの数になった。
理由としては、アサインできる仕事先はあるが新卒だけで行かせることはできないため、彼らをまとめてある程度指導できる中堅社員が必要だった。
しかし、中堅以上の社員層は全社員比率でかなり薄くなっており、その確保が難しかった。また、経験者の中途採用は行っていなかった。
そのような状況のため、各グループのマネージャは、新卒をアサインすることが、やりたくてもできないような状態だった。

新卒の未オーダー率の高さに業を煮やしたのか、懇親会の中で講演をしたエグゼクティブが、半ばお説教を始めたのが冒頭の言葉である。
お説教の内容を要約すると、「新卒は利益率が高いのだから、率先してアサインしろ。そのためには、すでにアサインしている2年目、3年目辺りと入れ替えてでもアサインさせろ。」という話だった。
利益率が高いというカラクリは、この会社の賞与にある。
詳細を書くと、この会社の会社名は分かると思うが、もう時効だと思うのであえて述べることにする。

昨今、求人の条件において給与は年俸で示されることが多いが、20世紀のころは基本給と賞与を分けて示していた。基本給には各種手当が含まれないので、基本給+各種手当がいわゆる月給となり、基本給×賞与の支給月数(だいたい年間5か月分支給となっていた)が賞与となる。
年間5か月分の支給は、夏冬に分けてそれぞれ2.5か月となるのが普通だった。

通常、賞与には評価期間があり、夏は概ね1~6月、冬は7~12月がそれにあたった。つまり、4月入社の新卒は、夏の賞与は評価期間内の在籍期間が足りないため満額支給されることは無い。しかし、入社年の冬については評価期間内をすべて勤務しているため、満額(2.5か月分)支給されるのが普通の企業だった。
しかし、この会社は社則にごにょごにょ記述があって、入社後1年経過しないと、賞与は満額支給されないことになっていた。
そのため、新卒の賞与は夏は寸志程度(10万くらい)、冬は基本給×1ヵ月だった。

このため、新卒と2年目の作業者原価は、大きく異なった。
当時は、まだベースアップがあり、新卒から2年目になる際に経年での昇給したため基本給は多少異なったが、それを考慮しても圧倒的に新卒の原価は安くなった。
ということは、SIerに同じ契約単価で常駐させていれば、新卒の方が利益率が高いということになる。

つまるところ、これがこの会社のビジネスモデルだった。
新卒を安く使って利益を出し、ある程度の年次になって給与が上がってくれば利益率が下がるので、辞めてもらってかまわないということだ。
上記に「中堅以上に層が薄い」と書いたが、この会社の昇給率は一般的な企業と比べてかなり悪く、「初任給は他社と比較して高いのだが、5年も勤めると他社の社員に逆転される」とよく言われていた。
結果として、社歴5年を超えるような社員はかなりの数が転職しており、新卒の面倒が見れそうな中堅、ベテランの数は少なかった。

この会社の社長は、いろいろと事件を起こして、週刊誌に取り上げられたりしていたのだが、週刊誌に書かれた逸話に「入社式で新入社員を見ていたら、全員が札束に見えた」というのがあった。
つまり、会社にとって自社のエンジニアはSESとしての商材であり、個人がどのようなキャリアを望むのか、どのように育成していくのかなど、どうでも良いことだったのである。





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