黒柴的パンセ #57
黒柴が経験した中小ソフトハウスでの出来事 #42
ここでは、中小ソフトハウスで勤務していく中で、起こったこと、その時何を考え、また今は何を考えているかを述べていく。
「この先、開発案件も控えているんですよ」
これは、黒柴が上長のグループマネージャと1on1ミーティングをしている中で、上長から出てきた言葉である。
これは、同じグループにいた若手社員Cについて、話しをしているときだった。
Cは、この話の1年前に新卒で入社してきた。Cは、基本的なビジネス研修などを終えた後、黒柴のグループに配属になった。
Cにとって気の毒だったのは、Cの入社当時、自社は大きなトラブルプロジェクトを抱えており、その収拾に黒柴や上長を含めて自グループは忙殺されていたため、Cに対してきちんとしたOJTなどは実施できず、かといってシステム開発についてほとんど知識のないCに担当させる作業もほとんどないため、ありがちなテスターとしてテストの実施、およびその取りまとめを実施させていた。
その状態が1年くらい経過した後、ようやくトラブルも収束し、会社やグループの運営も通常運転に戻ってきた頃に、あらためてCの今後を決める必要がでてきた。
しかし、このとき自社はトラブルプロジェクトの影響により、特別損失を計上せざるを得ない状態に陥っており、決算書上で赤字が見えていた。
こうなると、新規の仕事を受注することは難しく、今まで付き合いのある顧客の伝手をフル活用して、社員のアサイン先を決めるしかなかった。
そんな状況の中、Cがアサインされたのは、通信関係のサービスを提供する会社だった。この会社とどういう経緯で付き合いが始まったのかは知らないが、とりあえずCと、Cの一つ下の新入社員の2名がアサインされた。
半年くらい経過した後、「最近、Cはどうしているのか?きちんとスキルアップしているのか?」と、黒柴からマネージャに話題を振ってみた。
上長:「とりあえず、アサイン先が提供しているサービスの導入や、デモの支援などの作業を行っている」
黒柴:「それ以外にプログラミングスキルを向上させられるような作業は実施できていないのか?」
上長:「今のところ、プログラミングなどの開発作業は実施していない」
黒柴:「入社から数年でプログラミングの基礎を学んでおかないと、あとあとCが苦労すると思うが?」
上長:「客先の担当者からは、サービスのカスタマイズ作業もあるため、いずれ開発にも入ってもらうと話しをもらっている」
上長:「この先、開発案件も控えているんですよ」
このときは、なんとなくもやっとした状態のまま1on1を終えた。1on1は四半期ごとに実施されるため、1on1ごとにCの状況を確認したが、まったく変化はないまま、その後3年くらいが経過した。
「Cがプログラミングスキルを習得していないことは、いい加減ヤバいんじゃないか?」と黒柴のプッシュもあったせいか、上長もようやく重い腰を上げて、Cを通信サービス会社の作業から外し、黒柴の常駐先の作業にアサインしてきた。
このとき、黒柴の常駐先では、常駐先企業が提供するパッケージソフトを、あるエンドユーザ向けに導入するための、カスタマイズが始まろうとしていた。
自社からは、その作業に向けて中堅Yと若手M、そしてCをアサインしていた。Mは、Cよりも入社年次が若いのだが、たまたま仕事に恵まれており、自グループに配属になってから、いくつかのシステム開発(プログラミング)に携わることができていた。そのため、本人の素質もあるのだろうが、年次相当以上のプログラミングスキルを持っていた。
その3名で、カスタマイズ作業を実施していく中で、Cはみるみるメンタルを落としていった。
Cの気持ちは察するに余りある。自分より3、4年くらい年次が下のMがバリバリとプログラミング作業をこなしていくのに対して、C自身はこのチームでは全くのお荷物だった。
上長は、この先プログラミングスキルを上げていけばよいのだから、あまり焦るなとは言っているが、そうは言ってもOJTとして作業をしているわけではないので、いろいろとタスクの期限も発生する。
また、導入支援という作業を3年も続けて、Cの中にもいろいろと思うことがあったようだ。自社は、SES企業としてSIerの元で開発作業に従事することがメインだったため、エンドユーザとコミュニケーションに携わることはほとんど無い。
しかし、導入支援としてエンドユーザを相手に作業することにより、よりエンドユーザと近いところで作業をしていきたいと考えていたようである。
そのため、エンドユーザと関われる常駐先から外され、スキルのないプログラミングを一から学ばなければいけなくなった。
これも、Cにはだいぶ応えたようである。
このあと、Cは完全にメンタルを崩してしまい、休職となったあと1年ほどで退職となった。
Cは、新卒入社のときから、なんともタイミングの悪いことが続いたため、とても残念な結果になった。