発情する「ホスト新法」。現代のフェミニズムにおける保守的なパターナリズムの問題
このところ、悪質ホストをめぐる議論が活発になっている。
11月3日の警視庁の発表によれば、歌舞伎町・大久保公園周辺で摘発した売春の客待ちをする「立ちんぼ」の動機は、4割がホストクラブの支払い目的だったという。
11月20日には、岸田首相が国会で「ホストクラブ従業員による売春防止法違反、職業安定法違反等の違法行為の取り締まりのほか、風営法に基づくホストクラブへの立ち入り指導、消費者契約法等の関係法令の周知、相談対応の強化等の対策をしっかり行っていく」と述べた。
11月22日には、立憲民主党が、悪質ホストクラブによる被害の未然防止に向け、相談体制の整備や啓発推進を政府に求める法案の骨子を決めた。この法案は、「多額の借金を背負わされた女性客が売春や自殺に追い込まれるのを防ぐ狙い」で作られており、今国会に提出する予定であるという。
この、通称「ホスト新法」もそうだが、なぜ「女性」の問題は、「自己決定権を持たない、社会が積極的に介入し助けられるべき弱者」というパターナリズムに回収されやすいのだろうか。
私はフェミニストなので、女性は女性であるだけで男性よりも能力が劣り、主体的自己決定権を持たない存在であるという考え方がとても嫌いだし、差別的であるとも思う。
しかし、近年のメディアで取り上げられる、政治的、あるいはポピュラーなコンテンツやプロモーションとして現れるフェミニズムは、非常にしばしば、女性を「自己決定権を持たない、社会が積極的に介入し助けられるべき弱者」と位置づける、保守的なパターナリズムに陥っていると思う。
今回は、「ホスト新法」の問題点を軸に、現代のフェミニズムにおける保守的なパターナリズムの問題とその背景を考えたい。
「ホスト新法」とは
立憲民主党が作成している、悪質ホストクラブによる被害の未然防止に向けて相談体制の整備や啓発推進を政府に求める法案は、「多額の借金を背負わされた女性客が売春や自殺に追い込まれるのを防ぐ狙い」で作られており、禁止規定や罰則を設けない理念法であるという。
骨子としてあげられたのは、
を政府に求めるものだという。
まず思うのは、悪質なホストの営業が問題だとしても、既存の法で対処できるのでは?ということだ。
実際岸田首相も、売春防止法違反、職業安定法違反等の違法行為の取り締まりや、風営法に基づくホストクラブへの立ち入り指導、消費者契約法等の関係法令の周知、相談対応の強化など、既存の法や法令で対処していくと述べている。既存の法で対処できそうな問題に対して、迅速に新たな法を制定する必要が見当たらない。
しかも、禁止規定や罰則を設けない理念法であり、実際骨子もふわっとしている。「実態調査の実施」「相談体制の整備」などは法がなくても実施できるだろうし、「社会復帰の支援」や「関係機関との連携」などは、困難女性支援法の範疇でできそうだ。
法を新たに制定するときは、その法律が悪用されないか、不当な規制にならないかなど、複合的に判断していく必要がある。
なぜ、既存の法で対処できそうな問題に新たに法制定が必要なのか、立憲民主党にはまずはそこから説明して欲しい限りだ。
「ホストに貢ぐ女性」にだけは保護が必要?
次に、男女差の問題。
ホストに貢いで素寒貧になってしまう女性がいるのと同様に、世の中にはキャバクラ嬢や風俗嬢に貢いで素寒貧になってしまう男性も存在する。男女問わず、水商売や風俗に自らの支払い能力を超えたお金をつぎ込んでお金がなくなってしまうような人は、昔から一定数いるはずだ。
なぜ対象が男性消費者であれば不問とし、女性消費者であった場合のみ「被害者」として救済するための法律が必要になるのか、正直意味がわからない。
傍から見れば「もったいないお金の使い方だなあ」「愚かな選択だなあ」という消費や行動が本人にとってそうであるのかはわからないし、他者の幸福を勝手に決めつけるのは横暴だ。
いわゆる「愚行権」として、「好きでやっている」人たちだって男女問わず多いだろう。
女性消費者だけに法や公的権力が積極的に介入することを、あたかも「善」であるかのように主張する「ホスト新法」には、正直違和感を覚える。
「ホストに貢ぐ女性」と「キャバ嬢風俗嬢に貢ぐ男性」
そうは言っても、世の中ではなぜか、「女性や子供」が被害者として想定されることに多くの関心が高まり、積極的な保護と介入を求める声も上がる。
そこで、「ホストの客」と「キャバクラの客」の特徴に軽く触れていく。といっても、この分野ってYoutubeやTikTokなど、SNSを巡回すればあふれるように情報が出てくる一方で、公的な調査がほとんどないので、私がSNSなどで観察している範囲の印象を語っていこうと思う。
キャバクラやホストクラブ、キャバ嬢やホストのSNSの投稿から見えてくる客層の違いと、客への世間の関心の違い。
キャバクラやキャバクラ嬢のYoutubeチャンネルでも、ホストクラブやホストのYoutubeチャンネルでも、基本的に客にはモザイクがかかるが、キャバクラの客は中年以降の男性が多く、ホストクラブの客はキャバクラの客に比べ若い年代の女性が多い印象だ。
キャバクラ嬢の接客に対し、ホストの接客の方が傍から見ると横暴な態度に見える、いわゆる「オラ営」が多い。そんなに数を見ているわけではないのでステレオタイプや偏見が混じっているかもしれないが、ホストの客女性は、キャバクラの客男性に比べて若く、オラついた接客を好んでいるように見える。
また、「ホストの客」そのものを追いかける動画も多くある。
キャバクラの客の仕事やふだんの生活は、一部著名人や個性的な人を除きコンテンツになっていないが、ホストの客である若い女性は、多くの動画に取り上げられるなどコンテンツ化されている。
そうした動画を見ていると、ホストに貢ぐため、売掛金を払うために地方風俗に出稼ぎ、大久保公園立ちんぼと風俗の二刀流、売掛を飛んだり闇金で借金したり、ホストの子供を妊娠中絶したり病んだりといった、刺激的なエピソードをあっけらかんと語る女性が多数登場する。
TikTokを開けば、「出稼ぎ頑張ってるのにメンケア(メンタルケア)が適当なホスト許さん!」などと、貢ぐ対象にぞんざいに扱われることそのものをコンテンツとして発信するような当事者も多く観測できる。
ホス狂いは自ら発信するアイデンティティにもなっているのだ。
キャバクラの客とホストの客は、年代性別だけでなく、遊ぶためのお金の稼ぎ方、当事者の発信が異なり、「若い女性が遊ぶためのお金を稼ぐために売春したり闇金を利用すること」が、世間から異様な関心を持たれているのだ。
潜在的支払い能力としての若い女性のエロティック・キャピタル
個人的には、ホストだけでなくメンズコンカフェなどの未成年を対象とした売掛金は問題だと思っているし、対処療法としてでも禁止にしたほうが良いのではと思っているが、不思議なことに、若い男性がキャバクラの売掛金が払えなくて闇金に手を出し立ちんぼになり、という話は聞かない。
そもそも、本人の返済能力以上の売掛金を作るのは商売にとってリスクでしかないし、普通はビジネスとして成立しない。ホストクラブやメンズコンカフェの多額の売掛金は、若い女性の潜在的支払い能力として「セックスの換金」を見込んだものであることは、若い女性に対してセックスの換金価値が低い若い男性や中年以降の女性に対するビジネスでは同様のモデルが採用されないことから、状況証拠的な意味合いでわかる。
中年女性が客の中核である女性用風俗(女風)では、客のストーカー化や裏オプ本番問題などは起きても、価格が何千万、億単位の遊びになるという話は聞かない。女風のサイトを検索すると、一般的なエステと同程度の価格ですらあり、ホストに比べて随分料金が安い。
客の支払い能力に応じた形態にしなければビジネスは成長維持できないので、ここから逆説的にわかるのは、中年以降の女性には潜在的支払い能力としてのセックスが(少)ないということだ。
AV新法や困難女性支援法との類似性
立憲民主党が制定を目指しているという「ホスト新法」は、早期制定が目指されているという面では、現役の出演者へのヒアリングすらなく異例の速さで制定された「AV新法」に近く、女性を「保護が必要な無能力者(要保護更生女子)」と考えている点では「困難女性支援法」や、その基礎としてあった「売春防止法」が近い。
当事者の自己決定権を過小評価する点では、契約成立から撮影、販売まで一定の期間を要させる前述の「AV新法」も、根底にあるのは女性を「保護が必要な無能力者(要保護更生女子)」と考える発想だろう。
立憲民主党の塩村文夏参院議員は、産経新聞の取材に対し、
と述べているが、それは、女性だけを「自己決定権を持たない、社会が積極的に介入し助けるべき弱者」と位置づける保守的なパターナリズムととどう違うのか。
こうした声は、困難女性支援法に対しても、AV新法に対しても上がったが、「保守的なパターナリズム」との違いを説明してくれるような議員や活動家、学者などは現れなかった。ホスト新法では現れてくれるのだろうか?
女性のための法律という建付けであるにもかかわらず、「そこには保守的なパターナリズムや女性差別があるのでは?」という声が無視され、そのうえ法のデュー・プロセスを無視するほど早期制定が目指されるということはどういうことなのだろうか。
かわいそうな女子供には金があつまる。「魅力のない」属性には支援が集まらない
キャバクラ嬢に貢ぐ男性客が自分語りをする動画はコンテンツにならないが、ホストに貢ぐ女性客が自分語りをする動画はコンテンツになる。ホス狂いにインタビューすれば再生数が稼げるし、「かわいそうな女の子を支援する」と言えば、世間からの注目もお金も集まる。ホス狂いが貢げばホストが儲かることは、改めて書き記すまでもない。
ホストに貢ぐ女性の行動は一粒で二度三度美味しい、様々な形に変形し、多くの人の心や経済を動かす。
これは一本の線だ。
絶滅危惧種の動物でも、パンダのようなかわいい動物には多くの人から支援が集まるが、見た目が一般的にかわいくない爬虫類などには支援が集まりにくい。
パレスチナは世界から同情を買うために、敵対国の残虐性をアピールするために、積極的に「ちぎれた赤ん坊の死体」をTwitterに投稿する。
トー横(東京)やグリ下(大阪)、ドン横(名古屋)などに家出してくる未成年は男女ともにいるが、積極的に支援が叫ばれるのは「女の子」だ。
困難女性支援法制定にあたり、中高年シングル女性の貧困問題が訴えられたが、メディアや一般から注目されたのは若年女性支援の問題であった。
「魅力のない」属性には注目や支援は集まらないというのは、現在の新自由主義社会の中ではあまりのも一般化しており、福祉の領域とて例外ではない。
NPOの競合は他のNPOであり、寄付金や公金の額で事業規模が決まる支援団体・事業は、PRや広告で積極的に「支援する価値と魅力」をアピールする。
福祉は、支援(購入)する側に具体的な商品が渡らないからこそ、よりいっそう魅力的なイメージを伝えることが重要になる。
背景にあるのは、福祉の新自由主義化と、フェミニズムの新自由主義化にともなう商品化、その両方が、「若くて可哀想な女子を助ける」「知的な私/無知な彼女」という性欲に無自覚なことである。
そしてこれは、女性のエロティック・キャピタル(性的資本)の意図せざる作用なのだ。
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